第48話
すると、そんな奈々の様子を何処かで見ていて計っていたかのように夕姫が姿を現す。相変わらず不思議な美しさと強い妖力を放っているが、心なしか沈んだ表情をしていた。
「…やはり見つかってしまったか。さすが桂川の血を引く者じゃのう。」
タメ息交じりで呆れたように言う夕姫。だが奈々は夕姫の言葉を無視するかのように
「夕姫…。これって…。」
と言うと先程の契約書の葉を見せる。更に
「怜の力が失われているのは…、これが原因なの…?」
と夕姫に尋ねる。その表情は真っ直ぐ夕姫を見つめているのだが何だが切な気で夕姫は再度タメ息をつく。そしてしばらくの沈黙の後、重い口で語り始めた。
「…いつの頃かは分からないが、我が一族には特定の血を引く人間の家系と添い遂げなければ消滅するという宿命が存在するんじゃ。最初は半信半疑だったんだが、実際に我が父狐が躊躇していたら消滅しかけたそうでの。まぁ、お前の先祖と一緒になった事で免れたようだが…。恐らく怜も同じような状況に陥っているのだろう。」
「そんな…。こんな宿命を…契約を破棄する事は出来ないんですか?」
「それが出来たら苦労はしない。私も幼い頃から悩んでおったのだから。」
奈々の言葉に夕姫は真っ直ぐ見つめ答える。更に1つ息を漏らすと
「…まぁ、ここの場所を見つかってしまったのだから方法はなくはない。だが、それにはお前は選択せねばならない。」
と言った。
「選択?それって…。」
奈々の問いに夕姫は頷く。そして
「桂川家の宿命を解くか…。狐達の宿命を解くかだ。」
と言い放つ。その言葉に奈々は戸惑っていたが夕姫は話し続ける。
「方法としては簡単だ。試練を超えて手にした契約書の葉を破けば鎖のように刻まれた力は解かれる。だが、その契約書は特別な血が流れている人間の1つの命で1枚しか破けれない。何故なら2つ破く事は己の命も失う程に強大な力が必要だからじゃ。」
「そんな…!1つしか選べれないなんて…。」
淡々とした夕姫の言葉に奈々の表情は更に曇る。以前だったら間違いなく家の宿命を変えようとしただろう。でも自分の気持ちに気付いてしまった以上は、簡単に選択する事が出来ない。俯いたまま言葉を詰まらせ考えがまとまらない奈々。そんな奈々の頭に夕姫は優しく手を置くと
「少し時間をやろう。明後日以降にまた来てくれるか?」
と言う。そんな夕姫に奈々は力なく頷くしかなった。
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