第42話
話を聞きヒトツメと共に林の奥へと進む奈々。すると、妖達の言う通りいくつもの竹が植えられている空間の奥に小さな木造の小屋を見つける。
「…あれが怜の住んでる小屋かしら?」
「確かに気配はそうでやんす。でも感じ取れる力が凄く弱いでやんすよ?」
「そうなの…。」
ヒトツメの言葉を聞き嫌な予感を感じる奈々。それでも心に受けたショックを表に出さないように表情を変えぬまま小屋の方へと足を進めた。
無事に小屋の前へ辿り着いた奈々。辺りは既に暗くなり時々冷たい風が吹いている。奈々は深呼吸すると小屋の扉を数回叩いた。
「…夕顔怜さん?居ますよね?私、桂川奈々です。その…、見舞いに来ました。」
呼びかける奈々だったが小屋の中から返事はない。そればかりか扉の取っ手に触れると僅かに扉が動いた。
「鍵は開いてるみたいね…。」
奈々はそう言うと恐る恐る扉を開け室内へと侵入した。
室内は物音せず不気味な静けさが漂っている。だが奈々は僅かに感じ取れる妖力を察知しすると、ある一室の扉を開けた。すると和室の中央に巨大な体を横たえている狐の姿があった。その体は光輝いているのだが苦しそうに息をし、明らかに衰弱しているのが分かる。
「…!?ちょっと大丈夫!?しっかりして!」
動揺した奈々は慌てて駆け寄り震える手で倒れる狐の体に触れる。と、奈々の手に触れられた事で意識を取り戻した狐は目を開けた。
「…えっ?何でこんな所に桂川さんが居るのですか?」
「何でじゃないわよ!見舞いに来たに決まってるでしょう!?」
思わず目に涙を溜め訴える奈々。そんな奈々に狐の姿をした怜は頭を起こし顔を近付ける。
「…どうして桂川さんが泣いているのですか?僕は貴方に嘘をついていた卑怯な者なのに…。」
「…っ!それは…!」
思いがけず怜に問われ言葉を失う奈々。だが、もう気が付いている自分の気持ちに蓋をするように涙を拭う。そして少し赤くなった瞳で怜を見つめると改めて話し始める。
「…貴方が会社に来なくなって皆が心配してたから、私が代表でやって来たの。…ちょうど手紙の事も言いたかったし。」
「…あぁ。そういう事ですね。分かりました。」
奈々からの話を聞き納得したように頷く怜。一生懸命奈々に対して穏やかな表情を作ろうとしているようだが、狐の姿のままでは上手く作れない。結局、そんな怜の様子は奈々の心配を更に大きくしてしまうのだった。
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