第41話

紙に書かれた住所を頼りに奈々は歩き続ける。列車やバスを乗り継いで周りが薄暗くなり始めたがなかなか目的地に着かない。気付くと辺りの景色は都会ではなくなり、道沿いに竹が多く植えられている風景へと変わっていた。

「…何か妖怪が好みそうな空間に来たでやんすよ?」

「そうね…。」

ヒトツメの言葉通り竹林の陰からいくつもの気配を感じる。そればかりか

「…おい。あんな人間見た事ないぞ?」

「…本当だ。俺達の縄張りを荒らしに来たのか?」

と初めて見る奈々の姿に小声で話をしている。その声にすぐ気が付いた奈々は小さくタメ息をつく。そして足を止めると

「…ねぇ!陰に隠れてる貴方達に聞きたい事があるんだけれど!教えてくれたらこの饅頭をあげるわ。…だから姿を出して。」

と言い、肩から下げてるカバンの中から道中で買った酒饅頭を取り出し見せた。

 すると甘味と酒が好物な妖達が次々と竹の陰から飛び出す。そして奈々の周りを囲うように集まると手に持つ酒饅頭を凝視し始める。その姿に奈々は微笑み

「…この辺に狐の力を持っていて人に化けれる者を知らないかしら?私はその者を探しているのだけれど見つけれなくてね。…協力したら私が持ってるこのお菓子を全てあげるわ。」

と言ってカバンから更に2箱の酒饅頭を取り出す。その様子に妖達の目は輝き飛び跳ねるのだった。

 しばらく喜びの舞を踊っていた妖達。と、その中の1匹である小さな烏天狗が奈々の前に出て来ると

「…貴方が探しているのって変化すると金髪の人間の男になる奴ですよね?そいつが住む場所ならこの道を突き抜けた先に建つ小屋に住んでいますよ。」

と教えてくれた。その言葉を聞いた奈々は手に持った酒饅頭を烏天狗に渡す。

「…ありがとうございます。妖との約束を守るだなんて貴方は変わった奴ですね。」

烏天狗はそう言うと受け取った酒饅頭を一気に口の中へ入れ頬張る。その美味しそうにする様子に周りに居た妖達は唾を呑み込む。そして酒饅頭を貰う為に

「あぁ!貴方が探している妖は林の奥に住んでるよ!」

「そうだ!最近はあまり見なくなったけれど住処は変えていないはず!」

と口々に騒ぎ始めた。

その様子に奈々は少し呆れるが、妖達の目の前で酒饅頭の箱を開けると

「…じゃあ好きに食べなさい。」

と言い放り投げた。妖達は喜び酒饅頭に群がる。と、奈々はそんな妖の群れを避けながら林の奥へと進んでいった。

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