第40話

2人の間に沈黙とした空気が流れる。だが女性社員はそんな空気を壊すように言葉を続ける。

「本当は他の社員に任せるべきなのでしょうけれど…。でも何となくですけれど、夕顔さんの事は桂川さんに任せるのが良いと思いまして…。」

「…でも私が彼と揉めているのは知っているでしょう?」

奈々の言葉に女性社員の顔は曇り小さく頷くが

「それでも…、それでも桂川さんにお願いしたいのです!」

と強く言い頭を下げた。その様子に奈々はタメ息をつくと

「…分かったわ。彼の様子を見に行くわ。私も言いたい事があるしね。」

と言い優しく微笑む。その言葉と態度を見た女性社員の表情は途端に明るくなる。そして再度頭を下げると仕事を再開する為、自分の席へと戻っていった。

 一方、怜の見舞いを頼まれた奈々はというと、手を動かしつつ考え事をしていた。

(あの人ってばよっぽど怜の事が心配なのね…。)

そう思った瞬間、奈々の胸の辺りが小さく痛む。だが当の本人は、その事にイマイチ気が付いていないようだ。むしろ彼女は自分の心境よりも怜が出勤しなくなった理由の方を考え始める。

(確かにヒトツメは怜の妖力が弱くなっているとは言ってたけど…。もしかして本当に力が失われているとか…?)

ふと自分が思った恐ろしい考えに奈々は頭を振るう。そして既に芽生え始めている怜に対する気持ちを封印するかのように仕事を続けるのだった。

 その日の夕方。上司に怜の見舞いに行く旨を伝えた奈々は住所を聞き出す。その後、会社から出てしばらく歩きヒトツメ名を呼んだ。すると、そんな奈々の前に小さな妖が姿を現した。

「お待たせでやんす!一体、あっしに何の用があるでやんす?」

「別に大した事ではないのだけれど怜の見舞いに行く事になっちゃって…。一応、護衛をお願いしても良いかしら?」

「もちろんでやんす!喜んで付いて行くでやんす!」

そう言うとヒトツメはいつもの定位置である奈々の肩に飛び乗る。そしてご機嫌な様子で奈々と共に紙に書かれた場所へと向かっていった。

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