第38話

その日の夜。ヒトツメが奈々の布団近くに置かれている木のカゴで体を休めている頃。居間でくつろいでいた奈々は、牛皮で作られた茶色い自分のカバンを手に取る。そして手を入れると中からヒトツメより受け取った手紙を取り出した。

「まったく…。手紙を書くくらいなら直接謝れっていうの。」

思わず不満を漏らす奈々。だがタメ息をつくと、手に持った手紙の封を開け中身に目を通し始めた。

『桂川さんへ 突然のお手紙に驚かれたでしょうか?申し訳ありません。あの日以来、貴方に話しかける勇気が持てずこんな形を取ってしまいました。』まずは突然の手紙に対する謝罪の言葉が書かれていた。それでも奈々は終始無言で読み進める。

 『そして僕の正体を打ち明けなかった事…。本当に申し訳ありません。もし僕が桂川さんに本当の事を言えば、桂川さんは私から離れてしまい二度と傍に居れないと思ったからです。その想いは契約と全く関係なく、僕が一方的に抱いたものです。ですが、真実を知ってしまった以上は言い訳のようにしか聞こえないでしょうけれど…。』

「…まったくよ。」

手紙の言葉に対し思わず自分の想いを口に出す奈々。だが、その手紙に書かれている怜の率直な想いを感じ取った奈々の心からは、少しずつ怒りの感情が消えていき穏やかなものになりつつあった。

『さて今回、桂川さんに手紙を書いた理由は謝罪だけではありません。実は僕と結婚しなくても桂川さんの家が救われる方法が見つかったみたいなのです。』

(…!?一体どういう事?夕姫は結婚しか方法はないって言っていたのに…。)

気になった奈々は更に手紙を読み進める。

『僕がある日母の山の中を歩いていたら1本の木を見つけたのです。その木の枝には葛の葉がいくつも付いていたのですが、その1枚1枚に様々な契約が書かれていました。もちろんその葉の中に桂川さんの家の事が書かれているモノもありました。…恐らくですがその葉を破棄出来れば契約の力は失われるはずです。僕は力が弱くて出来そうもありませんでしたけれど桂川さんだったらきっと出来ますよ。』

そして手紙の最後にはこう書かれていた。

『契約を壊して桂川さんは自由に生きて下さい。それが僕のたった1つの願いです。』と。

 手紙を読み終えた奈々は深くタメ息をつく。そして

「明日もう一度だけ怜と話してみよう。一応、お礼も兼ねてね。」

と呟くと寝室へと向かうのだった―。

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