(第十話)

第36話

ほぼ夜通し手紙を書き続けた翌日。怜は重い体を引きずりながら自宅を出た。それほど寒くない時期のはずだか、少し風が吹いただけで冷たさが身に染みる気がする。

(やはり体は限界に近付いているのか…。だが、この手紙だけは渡さなければ…。)

怜は気合いを入れ直すと会社へと向かった。

 だが、いざ会社に着いても手紙を渡せれるきっかけがない。それどころか話す機会も皆無だった。それに普通に話しかけても無視されてしまうだろうし、書類に忍ばせるのも…。怜は必死に考えていたが、結局考えている内に終業時間になってしまい奈々の姿も消えていた。

 (しまった…。どうすれば…。)

怜が考え込んでいると、ふと脳裏にある存在を思い出す。そして残り僅かな力を使い、その者の所へ先回りする事にした。

 相手の弱き妖力を感じ取りながら怜は駆け抜けていく。そんな彼の目の前に他の妖達が現れた。

「そこの人の姿をした妖の兄ちゃんよ。随分苦しそうじゃねぇか。どれ?俺達に見せてみろよ?」

どうやら怜の体の妖力が弱まっているのを感じ取り集まってしまったようだ。怜は深く息を吸い込むと手を広げ狐火を生み出す。そして、その狐火を襲おうと跳びかかる妖達の方へと投げ飛ばした。

「アチー!」

狐火を当てられた妖達は大声を上げのたうち回る。その隙に怜は素早く姿を消して逃げていく。もう以前のように2発目の狐火を生み出す力は残っていなかったのだ。

「早く…届けねば…。」

怜は息を切らしながら更に掛けだしていった。

 しばらく怜が走っていると、彼の遥か前方に覚えのある妖の気配を感じ取った。

(ようやく見つけた…!)

怜はその妖に一気に近付く。そして手紙を懐から取り出すと、その妖に見せながら話しかけた。

「君って、奈々さんと一緒に居る妖だよね?確かヒトツメだったっけ?すまないがこの手紙を奈々さんに渡してくれないか?頼む。」

突然、近付かれ更にいきなり話しかけられヒトツメは大きな目を見開いた。

「何言ってるでやんすか?急に話しかける上に頼み事だなんて…。…って、あれ?確かお前は…。」

ヒトツメは改めて怜の姿を見て驚く。だが、すぐに皮肉交じりで話し始める。

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