第35話
(もしかして、この木の記憶なのだろうか…?)
怜は改めて木を見つめる。と、そんな怜の目に『決められた血の流れる狐と結婚しなければ桂川家は没落する』と書かれた葉が目に入った。
「これは…、奈々さんの家の事じゃないか?」
その瞬間、怜は先程流れ込んできたものを思い出す。
「もしかしたら…。奈々さんの家の呪いが解けるかもしれない!」
何故かそう思った怜は自宅を目指し歩き始める。確証を得た訳ではなかったが手に入れた情報を奈々に教えたかったのだ。
「奈々さんに教えてあげよう。そして彼女には幸せになって貰いたい!」
改めてそう思った怜は自らの自宅へ駆け込み居間へと入る。そして道端に落ちていた木の葉に妖力を込めると便せんを生み出しペンを手に取る。
(奈々さんはきっと自分の話を聞いてはくれないだろう。だからこそ、この手紙で呪いが解けるであろう方法を書き残そう。)
怜は深呼吸し気持ちを落ち着かせる。そして生み出した便せんを見つめると手に持ったペンで文章を書き始める。自分の想いが伝わるようにと願いを込めながら…。
怜はしばらく机に向かい手紙を書き続ける。と書いてる途中で何度か体調が悪くなり意識を失いそうになっていた。
(やはり奈々さんとの交わりを絶とうとしているからか…。)
怜は手紙を書きながら、以前母に言われた事を思い出していた。
それは自分がずっと前に『桂川家の次期当主である奈々と結婚しろ』と言われた時の事。あまりの一方的な発言に怜は夕姫に問い詰めた。『何故、桂川家の者と結婚しなければならないのか』と。すると夕姫は神妙な顔つきで
「それが我々に課せられた使命じゃ。その使命を果たさないと我々は消滅する。」
と言う。更に夕姫は続けて言った。
「私は一郎の祖父と結婚し証として人間の子とお前を産んだ。消滅は嫌だからのう。…お前も消滅はしたくないだろう?」
その言葉に怜は何も言えなくなる。だが心の中には既に答えは決まっていた。
『例え自分が消滅しても…、大切な人を苦しめたくはない』と。
改めて過去を思い出した怜は震える手で書き続ける。その胸の中にあるのは今も変わらない決意だけ。
(絶対に君を助けるんだ…!)
怜は体に鞭を打つように文章を書き続けるのだった―。
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