第34話
そして奈々の変化には怜も早くに気付いていた。だが先日の出来事以来、どうも声をかけづらい。それに声をかけた所で奈々の感情を逆なでするのは目に見えていた。
「どうすれば良いんだ…。」
怜は連日悩むようになっていた。
そんなある日。考え込む怜が歩いていると周りの景色が木々に覆われた空間へと辿り着いていた。どうやら業務後の帰宅途中に悩みながら歩いていたら、無意識の内に入ってしまったようだ。
「ここは…母の山だったな。」
怜は山中に流れる気を感知し呟く。そして何かに引きつられるように歩を進めた。
母の山といっても普段はあまり近付かない場所だった。その為か母と母の妖気に惹きつけられ集まる妖の姿は何処にも無かった。そして辺りは闇に包まれ始め静寂とした時だけが流れていた。
そんな山の中を怜が歩き続けていると、目の前に光り輝く1本の小ぶりな木が現れた。怜は惹かれるようにその木に近付く。よく見るとその木の枝にはいくつもの葉が付いているのだが、その全ての葉には何やら文字が書かれていた。
「これは…?」
怜はその木に優しく触れる。
すると木が更に光り始め怜の頭の中に何かが流れ込んでくる。そこには幼き姿をした女狐が居た。彼女は沈んだ瞳で気を見つめ1枚の葉を手に取る。
「どうして先代の狐はこんな契約書を作ったの?確かにこの契約書があれば狐達はずっと血を繋げる事が出来るし、人も私達からの力で富を得られる。だけど…。このままでは縛られ過ぎていつか『呪い』となってしまうわ…。」
更に女狐はタメ息をつき
「いつか…。資格を持つ者がこの契約を壊してくれれば良いな。そうすれば人と狐、そして妖達も新たな関係が結ぶ事が出来ると思うから…。」
と小さく呟く。その声と瞳は何処か悲し気で、でも未来へと希望を繋ぎたいと願う小さな想いが込められているようだった。
「今のは一体…?」
ふと我に返った怜は辺りを見渡す。だが、その風景は自分が来た時とほぼ変わらず静寂したままだった―。
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