(第九話)

第33話

奈々が怜を避けるようになって10日が経過した。この10日間の間、奈々は親戚達の苦しみを少しでも和らげようと動き回っていた。書店や図書館に行き、法律や財政難を乗り越える方法が書かれた本を手にとってはノートにまとめる。そして休日になると特に厳しい状況になっている親戚の元へと向かい報告した。だが、奈々から報告を受けた方はというと何だか浮かない表情だ。気になった奈々は理由を尋ねる。

「あの…、私変な事言ってますかね?」

「いや、そうじゃなくて…。気遣ってくれるのはすごく嬉しいんだけど…。でも奈々君が調べてくれた方法は既に実施済みなんだ。大半の売れる物は売ったし処分もした。でも、そんなのは一時的な効果しか発揮しないと思っていてね…。」

更に俯き力なく言葉を続ける。

「やっぱり一郎さんの手紙に書かれていた事は事実だったのだろうか?それを我々は信じなかったから罰が当たったのかね…。」

その言葉に奈々は反論出来なかった。だって、奈々の中では手紙が公開されてすぐに事実だと気付いていたから。ただ、幼い頃に祖父が教えてくれたように、強い心を持てば未来は変わると思いたかった。

 だが、親戚からの言葉は弱気なもので奈々は心が折れそうになる。それでも、そんな想いを隠しいつもの表情になると

「…とりあえず資料だけは渡しておきます。また私に出来る事があったら連絡して下さいね。」

と言って部屋から出て行った。

 その後も奈々は他の親戚達の所へ顔を出した。だが、やはり皆は気持ちが諦め始めている。その様子を見るのは奈々にとって辛かったが少しでも希望になるようにと明るく振る舞い続ける。本当の気持ちを隠すように…。

 その痛々しい様子に周りも気付き始める。特に自宅で一緒に過ごす事の多いヒトツメには奈々の置かれている状況を知っているので変化に気付くのが早かった。

「大丈夫でやんすか?奈々さん。最近、力というか心が乱れてるようでやんすが…。」

「うん…。ちょっと疲れちゃったっていうか…。でも大丈夫よ。こんな状態じゃ妖とは喧嘩出来ないから安全そうな道をなるだけ通るわ。」

心配そうな表情のヒトツメに対し奈々は明るく答える。その様子にヒトツメはまだ不安そうだったが

「分かったでやんす。新しい道になっても、あっしは迎えに行くでやんすね!」

と気持ちも新たに明るく言う。そんなヒトツメに奈々は微笑みながら頷いた。

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