第31話

そんな怜が耳を澄ましながら待っていると公園に入ろうとする足音に気付く。

(きっと奈々さんだ…。早く体を起こさないと…。)

怜は気合いを入れ直し上半身を起こす。そして自分の体調の変化に気付かせまいと立ち上がるといつもの優しい表情を作り奈々を迎えた。

 公園にやって来た奈々は何も言わず真剣な表情で怜を見つめる。と、その表情に怜は思わず頭を下げる。

「夕姫が…。僕の母が色々とすみませんでした。」

再会するなり突然の謝罪に奈々は驚く。だが、冷静に怜へ聞き返す。

「『僕の母が』って事は一連の話は事実なのね?」

「…はい。」

怜は消えそうな程の小さい声で答える。

「…何で早く教えてくれなかったの?私が…桂川家が置かれてる状況は最初から分かっていたのでしょう?」

「それは…。真実を話す必要は無いと思っていたから…。」

怜は歯切れの悪そうに答える。その態度に奈々の中に怒りのような感情が湧き始める。

「…必要がないってどういう事よ?私が悩んでいる理由も知ってるくせに話さないだなんて…。どうせ混乱してる私を見て心の中で楽しんでいたのでしょう?」

「そんな事はないです。それは桂川さんの誤解で…。」

「同じ事でしょう!ずっと私の前で偽っていたのだから!」

怜の言葉に奈々は大声で言い放つ。その声に公園の近くを歩いていた数人が足を止める。だが、周りから見るとただの痴話喧嘩だと思われたようだ。その為、一瞬立ち止まって様子を見て居た人達もすぐに目的地へ向かうのを再開させた。

 そんな周りの様子など目にも入らない奈々は怜を睨み続ける。そして急に出した大声のせいで上がった息を整えると再び話し始める。

「…確かに今となってはタイミングが良すぎるものね?祖父が死んで…、手紙が公開されて…、その後すぐに貴方は私の前に現れたもの。おまけに自らの事を『妖』だって教えてくれたし、強い力も持ってるみたいだったし…。だけど私ったら周りと同じように見た目と立ち振る舞いで惑わされてたみたい。すっかり騙されたわ…。」

「桂川さん…。」

俯き後悔してるかのような言葉を吐く奈々に怜は手を伸ばす。だが、触れられる前に奈々はその手を弾き飛ばし、再び鋭い眼差しで怜を睨んだ。

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