(第八話)

第30話

翌日。改めて怜と話をしようと奈々は決意し出勤する。だが、寝坊した事もありいざ職場に到着すると互いにすぐ仕事を始めてしまう。その為なかなかタイミングが作れなくなってしまった。

(どうしよう…。なんて言えば良いのか分からないわ…。)

気持ちだけが焦り、時々怜と視線を合わせるだけになってしまう。

 一方の怜も、そんな奈々の様子に気が付いてはいた。だが何と言って話せば良いか分からない。そこで奈々に渡す書類の裏に『昼休みに話をしませんか?会社近くの公園で待ってます。』と書いた水色の付せんを貼り付け渡す事にした。最初は気付かなかった奈々だったが、昼近くに書類整理をした時に剥がれ落ちた事でようやく気付く。

(こんなメモだけで直接言わないなんて…。一応、まだ私の事を気遣ってくれてるの…?)

昨日、夕姫から聞いた真実を頭の中で思い返しながら奈々は複雑な心境だった。それでも、せっかく向こうから作ってくれたきっかけなのだから逃したくはない。奈々は深呼吸し気持ちを落ち着かせる。そして既に部屋から出て行った怜を追いかけるように部屋から出て行く。周りには昼食を摂りにいくように装いながら…。

 時刻は正午過ぎ。何処の会社もお昼休みに入り始めているからか、外は制服を着たOLやスーツを着こなすサラリーマンが行き交っている。

そんな中を奈々は少し早歩きで歩いていた。怜が恐らく待っているであろう公園へ向かう為に。その表情は、これから怜に問い詰める決意をしているせいか、やや険しい顔をしている。そんな奈々の心境を察知してか、いつの間にか空もどんよりと曇り空になっていた。

 一方、一足先に公園に辿り着いていた怜はベンチに横たわり待っていた。本当は立っていた方が礼儀としては良いのだろう。だが、何だか気分が悪くて立ちっ放しだと倒れてしまう気がしていたのだ。

(やはり…。力が弱まっているんだ…。もう少しの間だけ人として過ごしたいのだけれど…。)

怜は額を自分の手で触れながら考え込む。その顔は昨晩よりも生気を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る