第27話
「…相変わらず強情な奴じゃのう。」
夕姫は態度を変えない奈々を見て呆れ顔でタメ息をつく。
「…そんな事言ってお主は自分の状況を分かっているのか?妖に確認させたらお前の親戚達は大分苦しいみたいじゃないか?」
「それは…。」
夕姫の話に奈々は言葉を詰まらせる。確かに先日、叔父さん達の様子を見に行ったら苦しそうにはしていた。利益も上げられなくなってきている為に休業日も増えている。こんな急激に状況が悪化するとは正直思わなかった。それでも…。
「だからって…。私は狐とは結婚しない!そもそも会った事のない狐となんかと結婚出来る訳ないでしょう!」
奈々は声を張り上げ言い放った。
奈々の言葉に夕姫は言葉を失う。そして呆れ顔のまま
「『会った事のない狐』のう…。本当に分からないのか?我が息子でありお前の夫となる者は既に近くに居るではないか。『夕顔怜』という名でな。」
と言う。その言葉を聞いた奈々は夕姫を無言で見つめる。
確かに現れたタイミングでそうかもとは思った。彼は自らの正体を『人間に化けた妖』だとも言ってたし面影も夕姫には似ていた。だが、心の中で夕姫の息子と夕顔怜が同一人物だと思いたくはなかった。何故なら奈々の心は自分を守り寄り添ってくれる怜に動き始めていたから…。
「…もしかしてアイツは自分の正体を全て打ち明けなかったのか?」
夕姫の言葉に奈々は頷く。
「自分の事は妖だとは言ってました。でも貴方の息子だとは…、ましてや契約の為の結婚相手だとは言ってませんでした。」
「そうか…。」
奈々は暗い表情のまま答える。その姿にさすがの夕姫も奈々に対し不憫に思えてきた。
(まったく…。アイツは一体何を考えておるのだ?確かに自らの正体を明かさぬ方が近付き易いが、何も知らせないままというのは…。)
しばらく考え込んだ夕姫はタメ息をつく。そして
「とりあえず今日は帰るが良い。人は夜になったらしっかり休まねばならぬ存在だからな。」
と少し優しい口調で言う。
それから奈々は息と同じように狐男によって家の近くまで送られる事になった。だが、その足取りは真実を知った事でショックを受け重いモノになっていた。
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