(第七話)
第25話
翌日。いつものように出勤した奈々に怜が近付いて来た。
(マズイ…。私って普通に話せれるかしら…?)
昨夜の月明かりに照らされ輝く姿を思い出し奈々の頬が一瞬赤くなる。だが当の怜は
「おはようございます。桂川さん。」
と言うだけで特に変わった様子はない。その様子に奈々も冷静さを取り戻す。そして挨拶を交わすと普段通りに仕事に打ち込むのだった。
その日の夕暮れ。帰り支度を済ませた奈々は会社の出入り口の扉を開けた。辺りは夕焼けのオレンジ色に染まり光輝いている。そんな景色を見つめながら奈々が帰宅しようとしていると怜に呼び止められた。
「貴方の身をお守りいたしましょうか?また妖に襲われてしまったら大変でしょうし…。」
「…えっ?それは有難いけど私と帰る方向が違うんじゃない?」
「構いませんよ。さぁ行きましょう。」
最初奈々は戸惑っていたが冷静に考え始める。
(確かに今の状況じゃ心に隙があるし危ないかも…。)
改めて考え抜いた奈々は決意する。そして怜を見つめ
「…じゃあ昨日別れた所までお願いしようかしら?強いボディーガードさん。」
と言う。そんな奈々の言葉に怜は微笑んでいた。
そして、その日以来、奈々は怜と共に帰宅するようになった。初めは怜が妖と知っていたせいか少し警戒していたが、彼の包み込むような優しさに触れ徐々にその警戒心は解かれてゆく。何よりも怜と居る間は不思議な安心感に満たされ、家の事でずっと覆われていた心のもやが晴れていく気がした。
(この気持ちは一体…?)
初めて抱く自分の気持ちに奈々は疑問を抱きながらも、怜との帰宅を楽しむようになっていた。
そんな日々が10日程続いたある日。奈々が帰り支度をしていると怜が近付く。いつものように声をかけて来たのかと奈々は思っていたが、何やら様子がおかしい。
「…どうかしたの?」
「あっ、実は…。今日は帰りに寄る所があって、奈々さんと一緒に帰る事が出来なさそうなんです。」
奈々の問いかけに怜は申し訳なさそうな表情をする。その顔を見た奈々はタメ息をつき
「分かったわ。わざわざ言ってくれてありがとう。」
と言い怜の前を通り過ぎる。そして怜もその姿をいつまでも見送っていたが、やがて何かを決意すると何処かへと行ってしまった。
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