第23話

「あっ…、あの…。」

奈々は怜を呼び止めようとする。だが、怜は奈々の顔を見ず自分の前に立つ。そして、手から火の玉を出すと

「もう彼女に手を出すな。さもないと…、この炎で顔だけでなく全身も焼き尽くすぞ。」

と言い睨み付ける。普段の穏やかな表情と違い、殺気を宿した瞳に奈々は言葉を失ってしまった。

 一方睨み付けられた牛男は、その瞳と怜の掌で強く赤い光りを放つ炎を見て体を震わす。炎を消し終わった顔は全体的に灰色となり、額からは汗のような物が滲む。そして瞳は恐怖のあまり見開いた状態になっていた。だが、徐々に近付く怜の様子に一瞬我に返ると

「…まっ、待ってくれ!もう手を出さないから…、だから体までは燃やさないでくれ!」

と言い斧を放置して慌てて逃げていく。更にその様子を見た女の妖や木の陰に隠れていた者達まで一目散に逃げて行った。

妖達の気配は消え辺りは沈黙とした空気が流れる。その様子に安心した怜は小さく息を漏らす。そして奈々の方へ振り向き

「…大丈夫ですか?桂川さん。怪我はありませんか?」

と優しく言った。いつものように穏やかな表情に戻ってはいたが、奈々は先程怜が使った力を見て素直に返事をする事が出来ない。と、その事に気が付いたのか怜は少し微笑み

「…あっ、先程の力ですか?すみません。驚かせてしまいましたよね?何たって私達妖は人の姿をしないと人間社会で生活が出来ませんので…。」

と申し訳なさそうに話す。その姿は月の光に照らされ怪しくも美しく輝いていた。

 月明かりに包まれ微笑む怜の姿に奈々は思わず見とれる。だが、すぐに我に返ると

「…べ、別に私は気にしないわ!力のある妖の大半はそうして生きてるって聞いた事があるし、化けなければ生きていけない世界にしたのは人にも責任がある訳だし!」

と照れを隠すように頬を赤くしながら言う。その様子に怜は更に微笑み

「ありがとうございます。やはり奈々さんは優しいですね。」

と優しく言った。その言葉と表情に奈々の頬は再び赤くなり、しばらく顔が上げられなくなっていた。

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