第21話

そして休日。朝早くに家を出た奈々は列車に乗り出掛ける。向かう先は親戚達の職場や家。そこに向かい極秘に調査をしていた。その結果、確かに親戚達は経営不振になり始め生活が苦しくなってはいた。ある者は高級マンションに住んでいたが、普通の賃貸マンションに住むようになっていた。またある者は経営していた会社を毎日操業していたが、最近は休業する日が増えてしまったようだ。

「やっぱり皆苦しそうだな…。」

改めて現状を知った奈々は心苦しくなる。そして『やはり狐と結婚しなければいけないのかな?』と思うようになっていた。

 奈々が悩みながら歩いていると買い物袋を持った彰が歩いて来た。

「あれ…?奈々じゃないか。どうしたんだ?」

「彰君…。」

彰の顔を見た瞬間、奈々の目から涙がこぼれ落ちる。だが、慌てて拭い

「ちょっと気分転換の為に遠出してたんだ。」

と笑顔を作る。そんな奈々の姿に彰は近付くと優しく抱きしめる。そして

「…辛いなら泣いて良いから。」

と優しく言う。その言葉に奈々は頷きしばらく彰に身を預けるのだった。

 「はい。特製ケーキをどうぞ。飲み物はコーヒーで良いか?」

奈々が頷くと彰は素早くコーヒーを淹れ差し出す。

「ありがとう。」

奈々はお礼を言うとコーヒーを口に含む。香りと共に特有の苦みが口に広がる。続いて奈々はケーキを一口食べた。優しい甘味が口に広がり何だか心が穏やかになっていく。

「…すごく美味しい。このケーキ。」

「ありがとう。俺が作ったケーキなんだ。しかも新作。」

奈々に褒められ何だか彰は嬉しそう。その様子を見ながら奈々はケーキを食べ続けていた。

 ケーキを食べ終えコーヒーを飲みながら奈々は一息つく。すると彰は

「落ち着いたみたいで良かったよ。」

と優しく微笑みながら言う。その言葉に奈々は嬉しくなる。そして思わず

「心配で叔父さん達の様子を見て来たんです。でも見てしまったら見てしまったで皆が苦しんでいる現実を知ってしまって…。」

と俯きながら言う。更に表情を暗くしながら

「…やっぱり私は狐と結婚しなければいけないのでしょうか?」

と戸惑いながら話す。そんな奈々の言葉に彰はタメ息をつき彼女の頭に手を置くと

「…そんな事をお前が気にするんじゃない。皆は絶対乗り越えるから。」

と言う。その言葉に奈々は一応笑顔を取り戻すが、その心はますます暗くなっていくのだった―。

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