第19話

そんな奈々の気持ちに周りは気付く様子もなく、皆は怜に対し次々と話しかける。そして怜も笑顔で応対していた。

(まぁ、確かに見た目は良いとは思うけれど…。何かね…。)

奈々はそう思いつつ仕事に取り掛かろうとする。

 とその時、急に怜が奈々に近付いて来た。

「貴方が桂川奈々さんですね?よろしくお願いします。」

急に挨拶され奈々は一瞬戸惑う。だか、すぐに笑顔を作り

「こちらこそ、よろしくね。」

と挨拶する。その様子に怜は安心したのか自分の席へと向かう。そして皆もそれぞれの席に着くと仕事を開始するのだった。

 部屋の中は紙を触る音、パソコンのキーボードを叩く音、電話の呼び出し音等が響き渡っている。そんな中で奈々は考え事をしながらも周りに悟られないよう手を動かしていた。一方の怜も他の社員に相談しながら一生懸命に仕事をしている。どうやら怜は顔だけでなく仕事も出来るようだ。その姿に何だか安心した奈々はより一層仕事に励むのだった。

 それからあっという間に時間は過ぎ終業時間となった。怜が帰る為の片付けをしていると女性社員達が近付いて来た。

「夕顔さん帰られるのでしたら、今から一緒に食事でもしませんか?歓迎会も兼ねて。」

「えっ?本当ですか!ありがとうございます。」

突然の誘いにも怜は笑顔で答える。そんな怜の横を奈々は通り過ぎる。そして

「…お疲れ様でした。」

と小さく挨拶すると部屋から出て行く。その様子を怜は何か言いたそうに見つめていたが、声をかける事はせず見つめるだけだった。

 会社を出て列車に乗る奈々。夕暮れ時は帰宅する人が多いせいか車内も人が多かった。そんな中、奈々は吊革に捕まりながら今日の事を考えていた。

(どうして夕顔怜の事を避けたい気持ちになるんだろう…。もしかして…、彼は人間ではないとか?)

怜の事を考えていた奈々だったが頭の中はすぐに自分の家の事へと切り替わる。

(叔父さん達を助けなきゃ。でも、どうやって…?)

一度考え始めると頭はどんどん重くなり熱っぽくなっていく。結局、体調を悪化させただけで良い考えは浮かばないままだった。

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