(第五話)

第18話

週明け。晴れ渡る空の下を奈々は歩いていた。今日から再び仕事に追われる日々が始まる。だが空の様子とは違い、奈々の心は未だに疲れている。祖父の死、手紙で判明する桂川家の秘密、妖狐の存在…。そして何よりも自分の未来を左右される妖狐との結婚話…。

「頭痛い…。」

考えれば考える程、奈々は頭痛に襲われる。何となく熱まで出そうだ。

(でも…、やる事はやらないと…。)

重い体を引きずりながら奈々は会社へと向かった。

 列車に乗り2つ先の駅で降りる。先程まで居た街にはあまり人が居なかったが、会社等が建ち並ぶこの街はやはり人が多い。人混みに流されそうになりながらも奈々は歩を進める。そして、ようやく自分が勤めている会社へと辿り着く事が出来た。

 出入口の扉を開け奈々は中へと入る。室内は空調が効いているせいか暑くも寒くもなくちょうど良い室温に保たれている。そんな室内を歩いていると心なしか皆が何かを話しては盛り上がっていた。

「・・・?」

不思議に思いながらも奈々は自分の仕事部屋へと向かう。すると奈々とよく話す女性社員数人が気付き近付いて来た。

「おはようございます!桂川さん!」

「おはよう皆。今日も頑張ろうね。」

いつものように軽く朝の挨拶を済ませる。と、よく見ると皆の顔がいつも以上に笑顔になっていた。

「…何かあったの?」

「あっ、はい!実はこの会社に新しい社員が入ったんです!」

1人の茶髪の女性社員が声を高らかに話す。

「あ~、それで皆が何か盛り上がっていたのね。で、男性?女性?」

「男の方です。それもイケメンの男性なんですよ!」

奈々の問いかけに別の黒髪の女性社員が同じく声高らかに答える。どうやら皆が盛り上がっていた理由は久々に社員が入ってきて、しかもイケメンだったかららしい。だが奈々は話を聞いてもイマイチ興味が湧かなかった。そして

「ふ~ん。仲良くなれると良いわね。」

とだけ言うと部屋へと入っていった。

 部屋に入り自分のデスクへ向かう。そして机の上を軽く整えていると部長が1人の男性を連れて入ってきた。

「おはようございます。え~、皆さんもお気付きだと思いますが、彼が今日からここで働く事になった夕顔怜君だ。」

「夕顔怜です。皆さんよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げると皆は笑顔で拍手をする。だが何故か奈々の中には怜に対して警戒心が生まれていた。

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