第17話

「…もう良いです!私は帰ります!」

話にならない!改めて認識させられた奈々は立ち上がり背を向け足早に歩き始める。そんな彼女の背を見つめながら夕姫は小さく呟く。

「そんな事を言ってて自分の家がどうなっても良いのか?」

夕姫の言葉に奈々は思わず足を止める。自分の心ひとつで叔父さん達の生活を苦しめてしまう可能性が高いのだから良い訳がない。だが奈々はその気持ちを悟られないよう振り向かず再び歩き始める。その姿に夕姫はタメ息をつき

「…帰るのなら提灯を目印にした方が良いぞ。この辺は迷いやすいからのぉ。」

と背後で言う。奈々は何も言わず歩を進めていた。

 奈々の姿が消え夕姫と狐男だけが残された。しばしの沈黙の後、狐男は

「…綺麗で強い方ですね。ですが本当に彼女を夕日丸殿の妻にさせるつもりなのですか?」

と問う。すると夕姫は笑みを浮かべ

「あぁ。もちろん夕日丸の嫁にするとも。運命は変わらぬ。あの娘も、夕日丸もな。…それに出会ってしまったら互いの心は揺れ動くだろう。そういうものじゃ。」

と何やら自信ありげに言いながら夕姫は静かに立ち上がる。そして闇夜に消えゆく夕姫の後ろ姿を黙って見つめていた。

 一方、夕姫と別れた奈々は自分の家を目指し歩き続けていた。確かに夕姫が言った通り提灯で照らされている道は近道だったようだ。すぐに自分のアパートに通じる道に出ると普段通り歩く。辺りはすっかり暗くなり妙な気配に包まれている。

 とその時、草むらから口だけしかない女と尾が2つに分かれた巨大な猫が飛び出してきた。

「覚悟しろ~!」

2匹の妖は奈々に向かって突進してくる。だが奈々は鮮やかにかわすと、それぞれの顔を殴りつけた。

殴られた2匹の妖は顔を抑えたまま足早に逃げていった。

「まったく…。考え事も出来ないんだから。」

奈々はタメ息をつくと更に歩き続ける。

 すると、そんな奈々の目の前にヒトツメが現れる。

「お帰りなさいでやんす。随分、遅かったでやんすね?」

「お迎えありがとう、ヒトツメ。ちょっと色々あったから…。」

奈々は疲れた顔で話す。その様子にヒトツメは

「そうでやんすか…。もし何かあったら言うでやんすよ?あっしは奈々さんの味方でやんすから!」

と心配そうに言う。その言葉に奈々は少し笑顔を見せる。そしてヒトツメを抱き上げ

「…ありがとう。」

と優しく言うのだった―。

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