(第四話)

第16話

小さく見えていた明かりは近付くにつれ段々と大きくなってきた。その明りの正体は赤い光が灯った提灯だった。

(不思議な光で…、とても綺麗…。)

幻想的な光景に奈々は思わず見とれる。と、よく見るとその提灯に囲まれた中央に誰かが座っていた。

「あの人が…?」

「ええ。奈々様が今から会われる『夕姫』様ですよ。」

狐男はそう言うとやや早足になる。そして明かりの中央に居る女性…夕姫の前へ行くと奈々を手招きする。奈々は深く息を吸い気持ちを落ち着かせると、夕姫の傍へと近付いた。

(この女性が夕姫…。私の家の事を知る者…。)

奈々は無言のまま夕姫を見つめる。赤い着物を着ているその女性は、狐の耳が生え腰よりも下に伸びている長い金髪が目立つ。その姿は闇の中に居るはずなのに妙な光を放ち周りを明るく照らしていた。怪しき力を感じ取った奈々は何も出来ず見つめ続ける。すると奈々のその姿に夕姫は笑みを浮かべる。

「…そんなに緊張しなくても良い。さぁ、そこに座りなさい。」

夕姫の言葉を受け奈々は夕姫の前に座る。その姿に夕姫は頷くと語り始めた。

「では改めて…、我が名は夕姫。ご覧のように妖狐でこの辺一帯を指揮している。で、そなたが桂川奈々だな?」

夕姫の問いに奈々は頷く。と、夕姫は品定めをするように奈々をまじまじと見つめた。

「ふむ。やはり桂川家の血を持つ者は素晴らしいな。これが我が息子の嫁になるとは嬉しいものだ。」

「あの!その事なんですけれど…。」

奈々は夕姫の話を遮るかのように言葉を発する。更に夕姫を見つめたまま強い口調で問いかける。

「…どうして私が狐と結婚しなければならないのですか?いくら力を借りていたからって…。そんなのは、おかしいです!」

「そう言われても…。それが桂川家の…お前の運命だしのぉ。」

奈々が強い口調で言っても夕姫はひるむ様子が無い。それどころか

「まぁ、そんなに強く言わなくても…。それに、まだお前は結婚相手の顔を知らないんだ。せめて会ってくれないとな…。」

と言い始めた。

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