第15話

そして夕方。夕日に照らされ山の木々が輝く頃、奈々は祖父の家の玄関先に立っていた。

「…本当に色々とありがとうございました。」

奈々はそう言うと正叔父さんに頭を下げた。

「大丈夫かい?本当に帰れるかい?」

正叔父さんは頭を下げる奈々を心配そうに見つめる。

「…はい。大丈夫です。それに帰らないと明後日は仕事がありますし…。では、また…。」

奈々は心配している正叔父さんの言葉を跳ね返すように言うと駅に向かって歩き始める。その思い悩む姿を正叔父さんはただ黙って見送るのだった。

 30分ほど歩き駅までもう少しという所まで差し掛かった時だった。奈々は突然、近くの山から何かが走って来る気配を感じ取る。

(一体、何がやって来るのかしら…?)

奈々は不思議に思い足を止めた。

 すると走ってきたモノは奈々の目の前に着くと動きを止める。そしてその姿を奈々の方へと向けた。

「貴方が桂川奈々様ですね?」

ふいに尋ねられる奈々だったが、答えずに走ってきた者の姿を見つめる。黒い着物を着て吊り上った目をした細長い顔の男…。一見するとごく普通の人間に見えるが、奈々は人間ではない事を悟った。

 奈々が問いかけに答えずにいると怪しい男性は急に顔を近付ける。そして

「私の事を悟って答えないだなんて…。さすが桂川家の次期当主だ。」

と言うと顔だけ狐に戻した。更にその姿で正座し

「私はある者に仕えている者です。例の件で貴方の事を迎えに参りました。さぁ、行きましょう。」

と言い人間の形をした自らの手を伸ばした。

(…これはきっと断ったら呪われるわね。それに例の件とも言ってたし付いて行った方が良いのかも…。)

しばらく考え込むと奈々はタメ息をつき狐の手を取る。そして導かれるまま狐男と共に山の中へと入っていった。

 狐男と共に山に入り随分経った。辺りは闇に包まれ狐男の持ってる提灯だけしか明かりは見えない。奈々はその状況に徐々に不安になってきた。

「あの…、まだですか?」

「もう少しですよ。」

奈々の問いかけに狐男は静かに答える。だがいくら歩いてもなかなか着かず奈々の心は更に不安になるのだった。

 そんな不安が頂点に達しそうになったその時、遠くに小さな明かりがいくつも見えた。

「もしかして…、目的地ってあそこですか?」

奈々は思わず問いかけると狐男は頷く。そして明かりを目指し突き進むのだった―。

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