(第三話)
第12話
祖父の家に1泊した奈々は、翌日、列車に乗っていた。自分のアパートへと帰る為だ。本当はまだ祖父の家に居た方が良かったのかもしれないが、落ち込んだり手紙の事を深く考える姿を見た正叔父さんが早く帰る事を促したのだった。
行きと同じように数時間列車を乗り継いだ奈々は、ようやく元の街へと戻って来た。昼下がりの日差しが照らす道を奈々はひたすら歩く。すると道の脇にある小さな草むらが揺れ何かが飛び出してきた。
「奈々さん!お帰りなさいでやんす!」
見覚えのある紺色の体毛に覆われた丸い体、細い手とバネのような足に1つの大きな目。それは紛れもなくヒトツメだった。
「そろそろ戻ってくると思って待ってたでやんすよ。」
ヒトツメはそう言うと特徴的な大きい瞳で奈々を見つめる。そのいつもと変わらぬ姿に奈々はとても安心した。
「お出迎えご苦労様、ヒトツメ。…さぁ、帰りましょう。」
奈々がその言葉を言うとヒトツメは『待ってました!』と言わんばかりに肩に飛び乗る。そして1人と1匹であのアパートへと戻っていった。
アパートに戻った奈々は1日半ヒトツメと過ごした。栄養のある物をしっかり食べて眠り、時々少し散歩したりして…。いつもの休日のように過ごしていた。おかげで祖父の死にはまだ少し立ち直れなくても、心は元気になった気がした。と同時に、手紙の事も心の中に封印していた。
そして3日間有給を取っていた奈々は何とか仕事復帰をする。来る日も来る日も業務をこなし続けた。また、帰宅途中に妖達に挑まれた勝負も毎回買っていた。そうする事で心のつかえが取れる気がしたからだ。心を隠し勝負を続ける…。そんな出来事を繰り返す中で奈々の心のつかえは次第に取れていった。
それから10日が経過した。奈々は昼休み中に近くの公園で休憩していた。あまり人が居ない昼間の公園は絶好の休息場所。いつものようにベンチに座り日が降り注ぐ空を見つめていた。
とその時、膝に乗せていた携帯電話が突然鳴り始めた。不思議に思いつつも奈々はボタンを押し電話に出た。
「はい、もしもし…。」
「もしもし?奈々君かい?」
電話の相手はまた正叔父さんだった。昼間に電話した理由を尋ねようとした奈々だったが
「今度の週末にまた帰って来てくれ!頼む!」
と正叔父さんは切羽詰まった声で言うと電話を切ってしまった。こうして奈々は再び祖父の家へと戻る事にしたのだった。
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