第11話
その日の夜。桂川家から少し離れたある山奥に誰かが入っていった。その正体は昼間に手紙を持って来た2つの角を持つ鬼の男だ。鬼の男は闇夜に包まれた山の中をどんどん進んでいく。
山に入りしばらく経つと、暗いはずの景色の一部が少し明るくなっていた。その明るい場所を目指し、更に奥へと進む鬼の男。すると鬼の男の目の前には複数の提灯で照らされた空間が広がっていた。その提灯の中央には金髪の狐耳をした女性が座っている。鬼の男は狐女の前に座り
「予定通り手紙を桂川家の者へと渡して参りました。」
と言って頭を下げる。そして狐女がねぎらいの言葉を言うと鬼の男は何処かへと行ってしまった。
鬼の男が立ち去り狐女は1人残される。闇夜の中、風が吹き抜け草木は揺れていた。しばらくの間、狐女がその空間に1人で過ごしていると誰かが近付いて来る気配がした。
「…夕日丸か?隠れてないで早くこちらに来るのじゃ。」
狐女は何もない木の方を見つめる。
するとその木の陰から1人の男性が姿を現した。狐女と同じように金色の髪をした男性だ。男性は浮かない表情で狐女に近付く。
「どうしたのじゃ?そんな顔をして?」
「どうしたも、こうしたもないですよ。これからの事を考えていたら気が重くて…。」
男性は暗い表情で答える。
「そんなんでどうするのじゃ。お前は誰が何を言おうとあの娘の婚約者じゃ。自信を持て。」
男性に対し狐女の表情は明るい。そんな狐女の様子を見ながら男性は暗い表情のまま続けた。
「彼女だからこそ困るのですよ。…どのように接すれば良いのか分かりません。」
「普通で構わないと思うぞ。娘はお前の事を知らない訳だし。…それに悠長な事を言っていると時間が無くなってしまうぞ。」
狐女は呆れ顔で男性に言う。そして真剣な表情で改めて男性を見つめ
「では、我が息子・夕日丸に改めて言う。準備を済ませたら人間界に行き、桂川奈々をお主の妻に迎えるのじゃ。良いな!」
と強く言い放った。
狐女の言葉に男性は最後まで暗い表情のままだったが、結局何も言い返せずその場を立ち去るのだった―。
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