第8話
経を唱え出棺を行った。火葬後の骨拾いも済んだ。工程が進んでいく内に段々と奈々の涙は止まっていく。だが心の中は晴れることなく、いつまでも懺悔の気持ちで一杯になっていた。
祖父の家に戻り沈んだ表情で遺影とお骨を見つめる奈々。そんな奈々の肩を誰かが優しく叩く。振り返るとそこには正叔父さんが居た。
「あまり自分を責めてはいけないよ。」
奈々の気持ちに気付いていた正叔父さんは優しく声をかけてくれた。
「ありがとうございます…。でも、こんな事なら就職しても戻ってくれば良かったなと思うと…。どうしても後悔してしまいます…。」
自らの想いを口にする奈々。その様子を正叔父さんはただ優しく見つめるのだった。
「ごめん下さい。誰かいらっしゃいませんか?」
突然、誰かが桂川家へとやって来たようだ。声に気付いた叔母さんが慌てて玄関の方へ行き引き戸を開ける。そこには帽子を被った中年の男性が居た。
「ここは桂川一郎さんのお宅ですよね?実は私、『自分が亡くなったら早めに親族達に読んでほしい』と手紙を預かっていたのです。受け取ってくれませんか?」
男性の手には確かに『桂川家の皆へ』と一郎の字で書かれた封書があった。
「…?分かりました。わざわざありがとうございます。」
叔母さんは不審に思いながらもその手紙を受け取る。すると手渡した男性はいつの間にか姿を消していた。叔母さんは首を傾げると扉を閉め部屋へと戻っていった。
叔母さんが完全に室内に戻ったのを確認すると、近くの木に隠れていたあの男性が再び姿を現した。
「…これでワシへの頼み事は済ませたからのぉ。一郎よ。」
男性が呟くと、その姿は見る見るうちに2本の角が生えた鬼へと変わっていく。そして一息つくと
「さて…。契約通り元の姿へと戻ってしまったから人里へはもう居れないしのぉ。山へと戻って休むかのぉ。」
と言い足早に山へと向かう。その拍子に辺りに強い風が沸き起こり草木や家の戸まで激しく揺れたが、誰もその事に気付く者は居なかった。
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