第5話
夕飯を食べ入浴を済ませると、奈々は一人布団の中に入っていた。そして目を閉じると今日亡くなった祖父の事を思い出していた。
奈々の祖父・桂川一郎は桂川家の当主としてだけでなく、とても強い力を持っていた人だった。奈々の父親が一郎の一人息子だった為か、よく祖父の家に行っていたのだが、その度に妖との振舞い方を教えてくれた。よく祖父は『妖と立ち向かうには強い心を持て。そうすればその心は強い力となりお前を守ってくれる。』と言っていた。その教えを学んだ奈々は不必要に妖に心を見せないようになっていた。
そして早くに両親を亡くした奈々にとっては、高校を卒業するまで一緒に住んでくれて親代わりもしてくれた。幼い頃に比べるとあまり話さなくなったが、それでも生きていく上で必要最低限な事はおしえてくれた。祖父と暮らしたのは約10年の間だったが、それでも毎日穏やかな時を過ごす事が出来た。
だが、高校を卒業しすぐに就職すると奈々は家を出てしまう。別に家を出ようと思っていた訳ではないが、祖父の家の周囲は田舎で就職先が無かった。そして家を出た後も帰る予定だったがほとんど帰る事が出来なかった。結局、奈々は就職した後、一度も帰らず今日となってしまった。
「ゴメンね…。お祖父ちゃん…。」
奈々は布団に包まりながら祖父に対する謝罪の言葉を呪文のように唱え続ける。例えその事に意味がなくてもそうせずにはいられなかった。しばらく布団の中で続けていたが、やがて意識が遠のき奈々はそのまま眠りにつくのだった。
深夜。外の草木も眠りにつく頃だった。何やら白い影のようなモノが何処かに向かっていた。その影が向かった先は奈々のアパートだった。影は壁をすり抜けると奈々が眠る布団へと近付く。そして、寝息を立てる奈々をしばらく見つめていたが、何もせず部屋から出て行く。その後の室内は静かな雰囲気へと戻り、外もいつもの闇夜のまま時が過ぎていった―。
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