第4話
更に道を歩いていると闇夜の中を一軒の木造アパートが現れた。ここが奈々が住んでいる場所なのだ。
奈々が部屋の鍵を開けると、肩に乗っていたヒトツメが飛び降り部屋の中へと入る。そして奈々も続けて部屋に入っていった。
「とりあえずお茶を入れるでやんす。夕飯も温めた方が良いでやんすよね?」
「そうね。お願いするわ。」
奈々が答えるとヒトツメは飛び跳ねながら台所で準備をする。一方の奈々は部屋の中央に座り足を伸ばしながら体を休める。いつものように静かな時間が過ぎていた。
とその時、突然家の電話が鳴り響いた。めったに鳴らない電話に奈々は不思議に思いながらも受話器を取った。
「はい…。桂川です。」
「あっ、奈々君かい?君の父親の従弟・正だけれど…。」
「えっ?正叔父さんですか?」
電話の相手は奈々の亡き父親の従弟である正叔父さんからだった。
「そうだよ。久しぶりだね。元気にしてたかい?仕事も順調かい?」
「はい。何とか。」
久し振りに話す正叔父さんに対し奈々はたどたどしく答える。だが一方で奈々は胸騒ぎを感じていた。
(正叔父さんが電話を掛けるなんて…。もしかして…。)
尋ねようとした瞬間、正叔父さんはタメ息をつくと重い口調で言った。
「実は…、君の祖父であり桂川家の当主でもある桂川一郎が今朝亡くなった。」
…やはりそうだった。今年の初めから体調が悪いと風の噂で聞いていたので嫌な予感はしていたが…。
「…そうですか。葬式等は明日ですか?」
「あぁ。君は帰って来れるか?」
「えぇ。明日から有給を取っていたので帰れます。」
ここ最近、何となく疲れていた奈々は3日間有給を取っていた。もしかしたら祖父は分かっていて亡くなったのかもしれない。奈々は正叔父さんとの電話を終えると受話器を置きしばらくボーッとしていた。
「大丈夫でやんすか?奈々さん。」
電話を終えても元気のない奈々の顔をヒトツメが覗き込んでいた。奈々はヒトツメを抱き上げると小さく呟く。
「あのね…。お祖父ちゃんが…。」
言葉を詰まらせながら奈々はヒトツメの体を撫でる。目から零れた涙が自分の紺色の体毛に当たっている事に気が付いたヒトツメは途端に慌て始める。
「…!?夕飯にしやしょう!そうすれば涙もきっと止まるでやんす!」
ヒトツメの慌てぶりに奈々は思わず吹き出す。そして涙を拭うと微笑みながら
「ありがとう。」
とお礼を言った。
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