第3話

『ドォーン!!』

奈々が振り下ろした斧は大きな音を立て地面に突き刺さる。その位置は牛男のすぐ横だった。あまりの恐ろしさに牛男は目を見開き体は硬直する。その様子を見た奈々は牛男に尋ねた。

「どうする?まだ私と勝負したい?」

奈々の問いかけに牛男はようやく我に返る。そして

「ちくしょう!今日のところは引き上げてやる!覚えてろよ!」

と言い、地面に突き刺さった斧を抜くと一目散に逃げて行った。その様子に奈々はタメ息をつくと地面に置いていた鞄を手に持つ。そして辺りを見渡し

「まだ私と勝負したいヤツは居るのかしら?勝負したいなら姿を見せ、そうじゃないなら早く何処か行きなさい。」

と強く言い放つ。すると先程まで木々や物陰から奈々を見つめていた姿は次々と消え、辺りは静かな夜道へと戻っていった。その事を確認した奈々は立ち上がると再び歩き出した。

 奈々がしばらく歩いていると、脇の小さな草むらが揺れ何かが飛び出す。それは紺色の毛に覆われ丸い体系をした1つ目の小さい妖だった。

「奈々さん!お帰りなさい。なかなか帰ってこないから心配したでやんす。何かあったでやんすか?」

「ただいま。ヒトツメ。別に大した事ないわ。ちょっと妖に勝負を挑まれてね。」

「そうでやんすか。まぁ、とにかく早く帰るでやんす。じゃないと、あっしがせっかく作った夕飯が冷めてしまうでやんすよ。」

ヒトツメはそう言うとバネのような足で飛び上がり奈々の肩に乗る。そして一緒に自宅のアパートを目指すのだった。

 「…しかし驚いたでやんす。未だに奈々さんに勝負を挑む妖が居るだなんて。奈々さんは強いから敵う訳ないのに…。」

奈々の肩に乗りながらヒトツメは呆れたように言う。…確かにヒトツメの言う通り奈々は幼い頃から強い力を持っていた。その力のせいで度々妖達に絡まれ怪我をする事もあったが、祖父の指導のおかげで奈々は更に強くなり、ついには妖達を負かす程になった。だが一方で、人と自然に距離を置くようになっていった。

「…まぁ、別に良いわ。勝てたんだし。」

奈々はヒトツメに微妙な気持ちを悟られないよう顔を見ずに答える。そして後は終始無言で家路を急ぐのだった。

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