第6話

しばらく2人は黙って歩いていたが、沈黙を破るようにミカエルは尋ねる。「君はずっと森の中に住んでいるのかい?」ミカエルの問いかけにレイラは振り返らず「そうよ。生まれた時からずっと森の中に住んでいるの。」と答えた。「生まれた時からって…。君には両親か居ないのかい?」ミカエルの再びの問いかけに「私に親は居ないわ。…あえて言えばこの森が私の親かしら。」と明るい口調で話す。「ふーん。そうなのか。」そう言いながらもミカエルは一瞬レイラの表情が暗くなり、握られた手が僅かに震えていたのを感じ取った。(何か言えない事情でもあるのだろうか?)ふと思ったミカエルだったが、あえて気付かないフリをした。もし気付いた事をそのまま問い詰めると、握られた手を引き放され、レイラが森の中に溶けて消えてしまいそうだったから…。

「あっ!もう森の出口よ!」レイラはミカエルに話しかけながら草木をかき分けた。するとレイラの言葉通り、いつの間にか森を抜け出していた。「さすがだね、レイラ。君のおかげで迷いの森から抜け出ることが出来たよ。ありがとう。」笑顔のミカエルに「貴方の役に立てて嬉しいわ。」とレイサも自然と笑顔になる。笑顔のレイラにミカエルは「何かお礼をしたいのだが…。」と言い、スーツの内ポケットの中を探り始める。ミカエルの様子を見たレイサは「お金や物はいらないわ。」と言い顔を近付ける。そして「代わりに私の頬にキスしてくれる?」と笑顔で言った。「そんな事で良いのか?」思わず驚くミカエルにレイラは笑顔で頷く。「…分かった。」ミカエルはレイラの肩に優しく手を置くと、レイラの右頬にそっと自らの唇を触れさせた。レイラの柔らかな肌が唇に伝わり更に口付けを続けたくなったが、ミカエルはその衝動を抑えレイラの体を引き離す。一方のレイラも、自分の高まる鼓動を聞かれないようにミカエルから離れた。「ゴメンなさい。私、変な事を言っちゃって…。」「いや…。俺の方こそすまなかった。」2人の間に気まずい空気が流れる。レイラはそんな空気を振り払うかのように「じゃあ…、私はこれで。」とミカエルに背を向け森の方へ歩き始める。ミカエルはしばらく森へ戻って行くレイラを見つめていたが、姿が完全に見えなくなると城に向かって歩き出すのだった―。

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