第7話
由佳がどうしてそうなったのかは、これまた遡ること一か月半前。
由佳が勤めている某大手広告代理手の女性後輩から『
由佳は私より頭が良い。『ただ』と言う言葉で簡単に引っかかる子じゃない。案の定由佳は最初その誘いに断った。けれど入社時代から可愛がっていた後輩からしつこくクラブ『A』への誘いが来たと言う。自分も言ったことがないけれど、その子は彼氏もいなく出会いも欲しかった為、しかし一人で行く勇気もなく由佳を誘ったみたい。
由佳はしつこく誘ってくるその後輩に根負けしたみたい。と言うか元々心優しい子だ。同情したのかもしれない。勿論加納くんにも事前に相談したが、加納くんが調べた所『A』は怪しい場所ではなく合法なクラブと言うことが判明した。仕方なく『一回だけ』と言う約束で『A』に行ってみたものの、そこはただのクラブではなかったようだ。
加納くんが調べてくれた情報とは違い、そこでは客や店員の半分が怪しいアイマスクを装着して、最初は言われた通り酒を楽しんでいた由佳だったが、その後輩がトイレに立ったのを機に近くに居た男二人が由佳を強引に奥の部屋へと引っ張っていき、由佳はそこで―――
――――――
――
「そんなの警察に行けば調べてもらえるだろ?」
この日、同僚と飲み会だった知坂は深夜ゼロ時ギリギリに帰ってきて、私は今まで由佳と会っていた話、由佳が遭った酷いことを話し聞かせた。私だけの力じゃ足りないから、せめて信頼してる知坂なら―――力になってくれるんじゃ。
「わ、私も言ったよ。まずは警察にって。でもね……動画も撮られてて、警察言ったらネットでばら撒くって。入る前には
”当店で何が起きても一切の責任は負いかねます”って。サインもさせられてて、由佳が酷いことされてるとき、それらしい人たちもたくさん見たって」
「それらしい人?」知坂は面倒くさそうに顔を上げ目をまばたいた。
「その……裏社会的な…?」
「じゃぁその店自体が非合法なものじゃん。俺らにはどうすることもできないよ。大体良く確認もせず入店した由佳さんにも問題があるんじゃ?」ジャケットをソファに投げ捨てネクタイを緩める知坂。
「そ……そんな言い方あんまりじゃない」
高校時代からの大事な友達由佳が酷い目に遭って、さらに妊娠なんて。
思わず私の目から涙が零れ落ちると
「……悪かった…俺がちょっと言い過ぎた…けど、警察も介入できないとこなんて俺たちはやっぱどうしもないよ」
「じゃぁどうすれば…」
履いていたスウェットをぎゅっと握っていると
「終わっったものはどうしようもできない、ならこれから先どうするのか考えるのがいいだろ」
知坂はワイシャツの胸ポケットからスマホを取り出した。
「ど……どうすればいいの…」
「堕すしかねーだろ。どっちみちどっちの子か分かんないし」
知坂の言葉に急激に何かが冷えていく感じがした。それとも熱い何か?
知坂ってこんなひとだっけ。
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