第8話
ドロリ……
私の中で真っ白だった何かに黒い何かが落ちていく感覚がした。それは何だか分からずただただ、黒い何かが私の中で気持ち悪く広がっていくだけだった。
その夜、私は知坂に背を向けて眠った。いつもは向き合ったり、抱き合ったりして眠いっているのに。今日だけはそんな気分にもならない。
二人で居るのに”寂しい”って感じるってこういうことなんだね。
知坂は仰向けになって相変わらずスマホに向かっている。こんな時までスマホ…
私が信頼できると思ったから知坂だけには言ったのに、こんなときにまで酷いよ。
知坂の冷たさに涙さえ浮かんできた。でも由佳が流した涙はきっともっと冷たくて痛かった筈。
でも知坂の前では泣くまい、知坂に頼んだ私が悪い、私が由佳を何とかしなきゃ!と必死に唇を噛んで涙をこらえていると
「おい」と声を掛けられた。寝てるフリをしようと決め込んで無反応でいたけれど
「ちょっと」とゆさゆさ揺さぶられたら振り返えざるを得ない。
何?と言う視線を向けると
「中絶手術に強い産婦人科がこの辺りにあるらしい」と知坂はスマホを私に見せてきた。
そこには古びた”
”藤堂産婦人科”なんて聞いたことがない。って、まぁ私がお世話になることは今まで一度もなかったから知らないものも当然で。
知坂はずっとそれを調べてくれてたわけ??
”先生がとても親切で親身になって相談してくれました。任せて良かった”とか”術後の痛みもないし先生の腕がいいみたい”と言うレビューもあった。
医院自体は古いけど医師の腕は確かってこと?
見出しに『望まない妊娠をされたときは当院に。秘密は厳守します』と書かれていたことがちょっと引っかかるが、相談するだけでもいいかもしれない。
「知坂……もしかしてこれをずっと調べてくれてたの?」今にも涙が出そうな目を何とか擦りながら隣で横になっている知坂を見ると
「お前の大事な友達だろ?URL送っておいたから明日にでも相談行ってこいよ」
知坂……
「ありがとう!」
私は知坂に向き合うとぎゅっと彼を強く抱きしめた。さっきは冷たいとひとだと思ってたけど、ごめんね。
そのときの私は気づいていなかった。いや、気づいていたかもしれないけれど無視したのかも。知坂から私は絶対使わないであろう女物の香水が香ってきたことを。
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