第58話

忙しいときにごめんね」



陸ちゃんはすぐに謝ってきた。



別に―――忙しい、とも言ってないけれど謝り癖がついているのだろうか。良い言い方をすると気遣いができるともとれるが。



こんな人が―――?と、ちらりと頭によぎったが慌てて頭を振る。



油断は禁物、とさっき誓ったばかりじゃないか。



コーヒーを飲みながら、陸ちゃんは



「こないだの合コンの時はごめんね、何か変な風に終わっちゃって、でもあの後さ、実は前田くんて覚えてる?一番若かった彼、彼がねどうやら敦美さんのことを気に入ったみたいなんだ」と切り出した。



前田…?名前まで覚えてないけれど、あの人が敦美のことを??宝田ちゃんのあざと攻撃にメロメロ(←死語??)だった気がするけど。人は分からないものだ。



「でも何となくタイミングを逃して敦美さんの連絡先を聞けなかったみたいで、良かったらまた今度前田くんと四人で会えないかな。勿論、敦美さんが良かったら、の話だけど」と陸ちゃんはあたふたと手を振る。



敦美……良かった……良かったね!!敦美にも春到来だよ!



なんて感激してる場合じゃない。陸ちゃんの口実かもしれないし。



でも……なぁ、他人を口実にそこまで回りくどいこと陸ちゃんはしない気がする。長い付き合いだからそこのところは分かる。



「じゃぁ敦美に聞いてみる……」



言いかけたとき、私の言葉は止まった。



ふとロビーに視線をやった私は見てはいけないものを見てしまった。





九条が、これまたパンツスーツが良く似合う美人と連れ添ってエレベーターホールへ向かおうとしていたからだ。



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