第57話
その後短い昼休憩はあっという間に終わってしまい、私たちは解散することになった。それぞれの部署に戻り、その日はありがたいことに外回りのアポもなく私は会社で事務作業に追われる午後を過ごした。
久しぶりの長時間の事務作業に目がしばしばするし、肩も凝った。こきこきと肩を回し
「さ、これからが一勝負」と喝を入れていると
「仁科さん、今日は早く上がれそうですね。あの……もし予定が無かったら」と青山くんが言い出し、彼の最後の言葉まで聞き終わらないうちに
「ごめん、今日ちょっと急いでるんだ。また今度」とあっさりバッサリと切り捨て、残念そうな、名残惜しそうな青山くんを置いて私はコートを翻した。
待ってろ犯人。
待ってろ、陸ちゃん!(←確定??)
指定したホテルのラウンジに陸ちゃんはすでに到着していた。受付ロビーの幅広いスペースのラウンジにはバーカウンターと食事ができるテーブルが並んでいて、平日のこの夜だって言うのに結構な賑わいを見せ客が思い思いゆったりと過ごしていた。ラウンジの、もっと本格的な冬になればマントルピースにもきっと火が灯るだろう、その前で男性のチェリストが聞き覚えのあるクラシックの曲を弾いていた。
夜のまったりとしたひとときに、ゆったりとした生演奏はシチュエーションには最高だ。やはりカップルの姿が目立った。
その中で陸ちゃんと顔を合わせる私たちもやはりカップルと思われるのだろうか。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ」と陸ちゃんはほんの少し笑ったが、陸ちゃんが頼んだのであろうコーヒーカップの中は底が見えていた。
すぐにホテルのウェイターが近づいてきて
「ホット(コーヒー)、あ、彼の分も」と促すと陸ちゃんは恥ずかしそうにウェイターに頭を下げた。
この陸ちゃんが手紙の送り主だとは思えない―――気がする、けれど
油断はできない。
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