第56話


そう言えば、最近斎藤さんの顔を見ていない。と言うか視線を感じなくなったって言った方が正しいのか。



「何で!」と私より敦美の方が早く反応してまるでゴシップネタに飢えた主婦のように体を前のめりにさせる。



「私もよく知らないですけどぉ。借金があるとか何とかぁ…あ!言わないでくださいねぇ、私が言ったってことぉ」



「言わないわよ、言わないけど…」敦美は言いながら私と顔を合わせる。



あの・・地味で真面目な斎藤さんが横領とか。しかも借金まで?どこにカネ掛けてたんだろ……もしかしてイメージじゃないけどギャンブルとか?」



敦美の言った通り確かに彼女がギャンブル依存症と言うのはイメージにない。





でも―――





斎藤さんは九条と歩いてた。



九条の”前”の店に来た手紙と写真。



犯人は陸ちゃんじゃ、ない――――?



嗚呼、分からない。



「その、斎藤さんは?最近顔を見ない気がするけど」



「それがぁ…」と宝田ちゃんは私たちを手招きして、私と敦美は宝田ちゃんに顔を近づけると、宝田ちゃんは至極声を潜めて





「何かぁ会社も無断欠勤して家にも居ないらしく、行方不明みたいなんですってぇ」







無断欠勤、行方不明―――……





「あ、あくまで噂ですよぉ」宝田ちゃんは慌てて言う。確かにこれが誤報だったら、斎藤さんには申し訳ないことになる。



「その噂、初めて聞いたわ」敦美が難しい顔つきで顎に手を置く。



私も初耳だ。



「総務部ってぇ、すっごい情報通の先輩が居るんですよぉ。あ、内緒にしておいてくださいね~、その先輩から聞いた話だから多分本当っぽいですねぇ」



少し整理をしてみる。噂が本当だとすると、斎藤さんはお金に困っていた。けれど九条との仲までは彼女が知っていた確率は少ない―――と思いたいが、私がホストと付き合ってるだの貢いでるだの根も葉もない噂話が出回ったのは割と早かった。



あの青山くんも知ってたぐらいだから。



恐らく、宝田ちゃんも九条の出現を目にしていただろうが、噂の発信源は彼女ではないだろう。単なる”信じたいから”と言う気持ちもあるが、私が陸ちゃんにプロポーズされた話が出回っていない所を考えると、宝田ちゃんは思った以上に口が堅いと見える。勿論、それは敦美にも言えることだ。



分からない。



斎藤さんなの?いや、斎藤さんなわけない。だって私にあんな凝った脅迫状を送ってきて恨む動機がなんてないもの。やっぱり




陸ちゃん―――




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