第54話
寝不足と緊張が続いて、この日の午前中私は小さなミスを繰り返した。電話を取り違えるし、簡単な書類を間違えるはで、散々だった。
途中青山くんに「仁科さん、大丈夫ですか」と心配された。もしかして”あの”手紙、青山くんかもなんて思い浮かべる始末。私ってサイテーだ。
嗚呼、何やってんだか私は。
と思いながら迎えたお昼休み、この頃はすっかり定番になってる敦美と宝田ちゃんが当然のように社食で私を待っていて…このメンバーを見て何故だか初めてほっとできた。
「陽妃、顔色悪いよ、大丈夫?寝不足?」と敦美が心配してくれて
「ホントだ~、先輩って昨日あのホストの人と一緒に帰りましたよねぇ、もしかしてぇ」と宝田ちゃんがニマニマしながらとんでもないことを言い出す。ま、まぁ?隣り合って寝たには違いないけれど、私が寝られなかった理由は
「何これ!脅迫状!」
私は昨日届いたであろう手紙の写真をスマホに収めていて(問題のブツは九条が持って行った)、それを二人に見せると流石の宝田ちゃんも顔色を青くして口元を覆っていた。やっぱ犯人は絶対この二人じゃないだろう。あの手紙は昨日の朝出勤するときは無かった。この二人とは帰るまで一緒だったからこの手紙の投函主ではないことは容易に想像できた。それ以前に私は何故だか二人を信用している。だから私も見せられるわけであって。
「ヤダ!怖い!」と宝田ちゃんは何故か私に縋ってきて……てか脅されてる本人に縋ってくるなよ、このあざと女。
「悪意しか感じられないね」と敦美が目を細める。「しかもカッターの刃とか、信じられない。警察には?」
「今行ったところで相手にされないだろうって九条が…」
「やっぱりお二人昨日ナニかあったんですねぇ」とムフフと宝田ちゃんが含み笑いをする。宝田ちゃん……さっき子ウサギのように震えて私にすり寄ってきたのに……
私はかくかくしかじか、九条の前の店にも手紙と、こちらは写真も送られてきたことを説明した。
「てことは、客の誰かってこと?」敦美が眉間に皺を寄せ
「ヤダ~、それって完全に逆恨みってヤツじゃないですかぁ」と宝田ちゃんが口の前で手をグーにして合わせる。
「その犯人にも単なる幼馴染ですって説明できればいいけど」と敦美が深いため息。
「こんな手紙送ってくる相手ですよぉ?そんな話が通じると思いますぅ?」宝田ちゃんの言うのももっともだ。
時間的に余裕があって、私たちの関係を知ってる、そして動機がある、この手紙を投函したのはやっぱり
陸ちゃん。
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