淑女探偵H

第53話


■ 淑女探偵H



ぜんっぜん!寝れなかった。



九条は私に背を向けてたから寝てるのかどうか分からなかったけれど、結局あれ以来会話をすることなく、そのまま朝を迎えてしまった。



大きな欠伸を漏らしながら何とかシャワーを浴び、目の下にできた黒いクマを何とかコンシーラで隠すことに必死になっていた私に、九条はまたも朝食を作ってくれた。



今日はハムエッグとトースト、サラダにヨーグルト。ご丁寧にコーヒーまで淹れてくれた。



だけどその朝食は一人分。



「あれ?九条は?食べてかないの?」



「わりーけど、俺用事思い出した。今日は先出るワ」と昨日着ていたジャケットを羽織る。



「え?」



もしかしてストーカーに狙われてる私を一人残して先行くってこと?



その心を読んだのか九条は私の頭を撫でながら



「大丈夫だって、手は打ってあるって言ったろ?それにこの時間帯近隣のサラリーマンやOLは多いし、ゴミ出しのおばさんたちだっているし」



そうは言うものの……



九条が打った手って何?



と聞く間もなく、「じゃな、また連絡する」とひらひらと手を振って何事も無かったかのように家を出ていく九条を、これ以上は引き止められなかった。



正直、この状況で一人で家を出るのは怖かった。けれど九条と一緒に家を出たら逆に逆恨みを買うかもしれない。だからこれで良かったのか。九条の言った通り住宅街のこの土地で同じ時間帯の出勤率は高く、いつもと同じメンツのいつもと同じ光景の朝が広がっていて、少しばかり安堵した。けれどこの人たちの誰かが私を尾け狙っていたら?と思うとその足取りはいつもより早いものになった。



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