第51話
お前の全てが欲しいって、どういう意味?それって好きってこと?それとも体だけの関係を築きたいってこと?
答えが聞きたいのに、最後の最後になって怖くなった。
『好き』とハッキリ聞いてしまったら私たちの関係はどうなるの?そもそも私のどこが好きなの?(九条に対して)喧嘩っぱやいし、口は悪いし、優しくできないし。
私は九条のこと好きだけど、だからと言って私たちが普通のカップルになれると思えない。
だからこの距離感がちょうど良くて、心地よくて。
「なぁ、覚えてる?中学二年の運動会の部対抗リレー」
ふいに聞かれ、「うん」と私は小さく返した。
部対抗リレーとはそれぞれ部活動のユニフォームを着て、文字通り部で対抗してリレーをすると言うものだった。ここで有利になるのはやっぱりダントツ陸上部で。文化部はやはり制服姿だし、元々文科系だから不利になる。そんな中、九条は当時ほとんど幽霊部員だったけど剣道部でアンカーを任されたんだっけ。当然、ユニフォーム姿となると防具はつけてないにしても袴姿で走る九条は、リレーのアンカーを任されたと知れ渡った時クラス中……いや、クラス外や先輩後輩からも『九条くん袴姿で走るらしいじゃん』『かっこいい!楽しみ~!』と噂されてたっけ。
「あの時バスケ部のアンカーは嵯峨野だったじゃん?」
「ああ、うん。そうだったね。そうだ!朱里って覚えてる?嵯峨野くんと今度結婚することになったんだって~」
九条は振り返りもせず
「知ってる。実家にも結婚式の招待状届いてたみたい。あのとき嵯峨野を蹴落としてやった甲斐があったってのに…」とぼそりと呟く。
嵯峨野くんを蹴落として?ってどういう意味?
嵯峨野くんは成績優秀の優等生だったけれど同時にバスケ部のエースでもあった。当時、九条程でもないけれどひっそりと人気があったのは朱里から知らされたっけ。
「あのとき、賭け?的なことしててサ」
賭けぇ?
初耳なんですけど。
「お前、あんとき嵯峨野から告られてたじゃん?」
「何であんたが知ってる……。ま、まぁそうだけど、体育祭のだいぶ前にちゃんとお断りしたよ?」
「そんなこと知らなかったからさ、俺が勝ったら仁科から手を引けって」
そんなことを―――
初めて聞かされる15年前の出来事に私は思わず九条の方を見た。九条は相変わらず背中を向けてて、どういう顔してるのか分からなかったけれど、
「俺、勝ったじゃん?
だから仁科にちゃんと言おうと―――……」
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