第50話


九条をベッドに招き入れたのは自分だけど、しんと静まった空気に二人だけの息遣いだけが静かに聞こえ……き、キマヅイ。



九条は私に手を出してくる気は本当にないのか私に背を向け、寝てるのかどうか分からない。



ちょっと動いたら触れてしまいそうなこの距離。



下手な身動きもできず布団をきゅっと握っていると、



「なぁ起きてる?」と九条から静かな問いかけがきた。



「うん…」顔だけを九条に向けると九条はやはり背を向けたまま



「仁科ぁ……お前でも指輪もらったりすると嬉しいーもんなの?」ボソッと問いかけられ



「指輪?」と瞬時に何をさしているのか本気で分からなかった。



「ほら、さっきのおっさんに」



「あー、陸ちゃんのプロポーズ。うん、まぁ確かにアレには驚いたよね。1カラットはあるんじゃないかな」



私は陸ちゃんからもらった指輪を……そう言えばあれ以来一度も開けてない、思い浮かべた。結構な金額がするんじゃないだろうか。



「すぐ売ってやれ」



ブスリ、と九条の声が低くなる。



「売るってねー、そんな非道なこと…」



「んだよ……俺が強力なライバルたちを蹴落としてきたってのに、今頃またも現れるとか…」



ライバル……?



って誰?と聞こうと思ったら



「俺さ、俺の中に、もう一人の俺が居るんだ」と、唐突に九条は切り出した。



「何それ、二重人格?」私は苦笑い。






「30歳、等身大の俺と



14歳の―――俺」





え―――……?



「俺のトキはきっと14歳の時から止まってる」



「どういう…」意味―――



「楽しかったな、あの時は。ただ何も考えずお前のことずっと目で追ってた。それだけで幸せだった。十分だった。



だけど歳を重ねると、心と体が成長したらその分欲が出てきちまうんだ。



もっとお前に近づきたい、お前に触れたい、お前の全てが―――





欲しい」




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