第48話
九条は取り乱している私に、ご丁寧にも紅茶を入れてくれて
「ほれ、とりあえずこれ飲んで落ち着きな」とマグカップをテーブルに置いたが、
「あんたのせいで」キっと目を吊り上げると
「落ち着けって言ったろ?俺がお前と二人で出歩くなんて珍しいことじゃないだろ?何で今更、な気がするんだよな」
九条が顎に手を置き「うーん…」と小さく唸った。
確かに……
私たちはしょっちゅうって程ではないけれど、何度か二人で会ってるし、九条が言った通り何で今更?
「私たちは何でもありません、とか背中に紙でも貼って歩く?」
ヤケクソ気味で言うと
「そんなん逆効果だろ。まぁ今は様子見っていうか」
様子見って……
「そんな他人事みたいな言い方何よ!大体元凶はあんたなんだから」と私が九条に詰め寄ると
「確かに俺が姫の誰かに恨みをかったかもしれない。
けど、俺はお前と居ると落ち着くんだよ。楽しいんだよ。癒されるんだよ。
俺だって誰かを好きになったっていいだろ、人間なんだから」
え――――?
またも―――”好き”?
ねぇそれってどこまで本気なの?
いつもの軽い口調で
『冗談だよ、何真に受けてんだよ、バーカ』とか言ってくれないの?
けれど九条の黒い瞳は真剣そのもので、またも瞳の奥に光が宿っていた。それはギラギラしたものではなく、キラキラと―――きれいなもののような気がした。
「とりあえず手は打つ。警察には行くなよ?犯人を刺激することになる」
「手を打つて、どうやって―――」
「俺に任せておけって」と軽く肩を叩かれ「ちょっと電話してくるワ」と九条はリビングから出るとトイレやお風呂が連なる廊下へと向かった。
ほ、ホントに電話をしてるのだろうか。誰に?聞いちゃいけない気がしたけれどどうにも気になって私は扉の内側からそっと聞き耳を立てた。けれどボソボソと喋る九条が一体誰に電話を掛けてるのか、何を話しているのか分からなかった。
電話は5分と掛からなかった。通話を切った気配を察して慌てて元いた場所に戻ると
「今日は泊ってくわ。お前が心配だし」と私の頭を撫でる。その手は大きくて温かくて安心する―――けど
「だ、大丈夫だよ、大げさだなぁ」
「あんなに怯えてたのに?」
九条はちょっと意地悪く笑う。私の弱みを初めて発見した、とでも言いたげだ。
しかし、今は貞操の危機に怯えてる。
このまま九条を泊まらせたら、またも致してしまうんじゃ…
「この俺に平気で膝蹴りかましてくるくせに、可愛いとこあるんだな」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれ、次いで動物か何かを可愛がるように優しく撫でられる。
こんな風に優しくされたら―――……致して―――しまわないように、二度目は許さないように
気を着けなきゃ。
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