第36話


肩で息をしながら部署に戻ったとき、交代で休憩に入る筈の青山くんを含め数人の社員たちが通常通りの業務をしていた。さっき見た黒いスーツの人影は見当たらない。



「青山くん、な、内部監査は!?」と青山くんに勢い込むと



「もう終わりました。ちらっと見て出ていっちゃいましたよ。でも大本命・・・はどうやら経理部みたいですね」



とボソッと耳打ち。



経理部……?



「何で…?」



「さぁ、良く分かりませんが横領がどうのこうのとか物騒なこと監査員たちがちらっと言ってました」青山くんは苦い顔つき。



横領!?



「と、とりあえず”うち”は大丈夫ってことで大丈夫?」日本語が変。



「大丈夫です、今のところは。ただ戻ってくる可能性がありますので気を付けた方がいいかもしれませんね」



「うん、分かった。ありがと!」



横領―――なんて、誰が何のために?まぁお金が必要な人は世の中たくさんいて、普通に稼ぐより楽だし手っ取り早いけど、その分ハイリスク。犯罪は犯罪だ。



けれど明日は我が身。監査員たちがいつ戻ってきていいように、私は慌てて個人情報の載った書類をロッカーや引き出しの中に仕舞い入れ鍵を掛けた。



一応は対応できたけれど、その日の午後、監査員たちが戻ってくることはなかった。



そのまま平和な午後を過ごすことができ、定時を過ぎると私は三人で待ち合わせたロビーに直行。



しかし二人はまだ来ていない。



何なの、がっついてたくせに遅れてくるとか。



って、まぁ本気で怒ってないけど、



すぐに敦美からメールが入ってきた。



”ごめん!!定時ギリギリになってデザイン変更の依頼が来た!あと10分で行く!”



わー、大変そうだー、とどこか他人事のように思い、しかし時間はだいぶ余裕を取ってあるから”ゆっくりどうぞ、間に合うから”と返信をした。



しかし…10分かぁ…短く感じる気がするけど長いなー



広いエントランスロビーに設置されてた横に長いソファに腰を下ろすと、暇潰しにゲームのアプリを開いた。パズルゲームみたいなもので、いっとき九条とはまって対戦してたっけね。



九条……あれからどうしてるんだろ…



って!いかんいかん!!



慌てて首を横に振る。



何で私、九条のこと考えた?



今日は陸ちゃんに会うって言うのに。



気を取り直してゲームに取り掛かろうとしていると、電話が鳴った。



着信は九条からで。



何で!



九条のこと考えてたからか?いや、単なるタイミングの問題で。てかタイミング良すぎ!てか悪いのか??



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