第32話
あいつが―――?そんなこと?
「……言いにくいけど…それって本心じゃないと思う。あ!朱里を傷つけないようにって意味で…」
何で過去の恋愛話のフォローを必死にしてる私。てか九条!もっとマシな言い訳なかったんかい!
『私の親友を好きって方が傷つくよ』と朱里は苦笑い。そりゃそーだ。
「あいつ、その辺ちょっとバカなとこあるから。あの時うちら四人何気につるんでたし、身近にいた私の名前を出しただけだよ」
今の九条なら口の中に嘘の神様飼ってるようにスラスラ嘘が吐けるようになったけどね。だから女の子を傷つけないようにフることなんて簡単なことだろうけど。
『でもさ、傷つかなかったって言えば嘘だけど、なんか陽妃を好きって言われて太刀打ちできないなー、とか思ったのは事実。だから恨んでなんかないよ』
「恨むとか怖いこと言わないでよ」私はワイヤレスイヤホンでハンズフリーの通話に切り替えると、ようやくコートを脱いだ。
肩の重たかったコートがはがれた筈なのに、また違う何か重いものが肩にのしかかった気がした。
九条も何でそんな嘘を―――
朱里と電話をしたのはどれぐらいぶりだろうか、お互いの近況報告をしあって、夜遅いこともあり私たちは早々に昔話を切り上げた。
はぁ
今日何回目かになるため息を吐き、ボスンとベッドに体を沈めた。
「……疲れた」
体力的にはまだまだエネルギーが有り余ってる。今日は残業もなければ大したトラブルもなかったし。けど心が―――疲れた。
このまま眠ってしまいそうな。瞼を閉じると
気のせいか、九条の香りがする―――………
………
って!これって残り香ってヤツ!?
てかあいつ何時までここに居たの。ポストには確かに合鍵が入っていたけれど。
私は慌てて起き上がるとミストタイプの消臭剤を布団に吹きかけた。
まるで昨日の香りの上書きをするように。こうやって記憶の上書きも簡単にできればいいのに。
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