第30話


「それって、つまり合コン的な?」



「そう、それ」



すっかり話題が逸れた気でいた私は元来のペースを取り戻すことができた。赤ワインと鶏とトマトのチーズ焼きも注文し、ワインが運ばれてきたとき陸ちゃんはまたも控えめに笑った。



「つまり、返事を聞くまでもう一回は会えるってことだね」



Why?



何故そこんとこ前向きになれる。



「分かったよ、学生は……流石に無理があるだろうから、准教授か秘書辺りになるだろうけど声を掛けてみる」



「あ…りがと…」



何故か素直になれない私も控えめに返事を返した。



その後は当たり障りのない会話を繰り出し、しかし『明日早朝ミーティングだから』と言う嘘までついて私はその場を早めに切り上げた。



陸ちゃんとは私のマンションの最寄の駅で別れた。普段なら律儀な陸ちゃんは徒歩だけど家まで送り届けてくれる。けど、今日ばかりは一時でも早く一人になりたかった。



夜も22時を過ぎればすっかり暗く、この頃ではしん、と音が聞こえてきそうなぐらい冷えてくる。薄手のコートの前をしっかり合わせて下を向きながら歩いた。黒いアスファルトにさらに黒い私の影がのそのそと動いている。



一歩、二歩、と歩みを進めていくうち、いつか……いつか、私の隣で歩を合わせて歩いてくれるひとが現れるのだろうか、と思えてきた。それは人生の歩み。それは九条なのか、それとも陸ちゃんなのか、それとも違う誰かなのだろうか。




結婚―――




分かんない。何故みんなその二文字に縛られるのか。紙の上の話だけじゃないのか。それだったら誰でもいい。でも生活を一緒に共にするのなら?誰でもいいとは言ってられない。



体がいつもにも増して寒いのは、昨日思いがけず九条のぬくもりを知ってしまったからなのか。



陸ちゃんの熱い気持ちを知ってしまったからなのか。



分かんないよ。



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