第25話


「てか九条に貢いでなんかないし!借金もないし!」



ガンっ!と飲み干した生ビールのグラスをテーブルに叩きつけると、目の前で陸ちゃんが目を丸めて口を半開きにしていた。



驚きとも怪訝とも呼べるその表情を読んで、



しまったぁ!やってしまった!



と思わず顔を覆った。



そう、今、私は陸ちゃんがチョイスしてくれたちょっと小洒落たイタリアンの店で二人で居る。



陸ちゃんは仕事帰りなのだろう、いつもと変わらずスーツ姿だったけれど、いつもと違うのはネクタイをきちんと締めてるってとこかな。そのネクタイは今年のバレンタインの時に私が上げた濃紺がきれいにグラデーションになっている一本だ。



陸ちゃんはあまりネクタイをしない方だけど、たまに会う時私があげたものをさりげなく身に着けてくれるからちょっと嬉しい。て言うか、陸ちゃん……自分が絶対選ばなさそうな色のシャツ着て……きっと院生か学生さんの誰かのアドバイスでも受けたのか?それとも私と同じ、誰かにプレゼントされた??



陸ちゃんは年齢の割にスタイルがいいし(背はちょっと低いけど)顔面レベルもなかなか高め。『イケオジ』?って言うのかしらね。でも生真面目な性格上なのかモテるって本人に自覚がないのはな~……きっと前の奥さんともこのことが原因で離婚しちゃったんじゃ??



あー、やっぱ無理。結婚とか無理だわ。バツイチの人目の前にして悟るなよ、私。



「良く分からないんだけど、会社で何かあった?」と陸ちゃんがちょっと心配そうに眉根を寄せる。こうゆうさりげなく優しい所、好きだよ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る