第22話


私は何をイライラしているのだろう。



青山くんにちょっと冷たい態度をとってしまったことに申し訳なさを覚えつつ、それでもやはり苛立ちの方が勝ってまさっていた。



敦美とランチの約束をしているのは本当のこと。部が違う敦美と入り口ロビーで待ち合わせている間も、ちらちらとこちらを盗み見してはひそひそ噂話に忙しい社員たちの好奇の視線が痛い。



青山くんに言った通りの関係であることを一々説明する気にもなれない。



聞きたきゃ堂々と聞きに来い。そしたらキッパリと言い切れるのに。






「その噂、私も聞いたよ」



敦美とは会社からちょっと離れたカフェでランチを取ることにした。いつもなら移動時間が短く料金も良心的な社食にするのだが。敦美に相談するにもいつもの社食だとマズイ。



「でも私は信じなかったけどね~、だってその話昨日聞いたばっかじゃん。約束があるっぽい話も聞いてたし。それにあんた昨日誕生日だって教えてくれたじゃん」



との返答にほっ。敦美に九条との関係を隠さず話しておいて良かった。



「でもね……でも…」



う゛ー、何て切り出せば……



店はいかにも、と言う感じの若い女の子たちが好みそうなオシャレな感じで、やはり近くのOLやら大学生やらの女性たちがいっぱいだったからこの手の話を出すのも戸惑ったが……



結局私はかくかくしかじか昨日あったことを話し聞かせることになった。





「はぁ!?そいつと寝たぁ!?」




いかにもオシャレに盛り付けられたラザニアにグサっとフォークを突き立て敦美が目を怒らせている。



「ちょっ!敦美っ!声が大きい!」



私は慌てて手を振り、周りをきょろきょろ。思った通り、客の数人かは敦美の声に反応してこちらを見てきた。



ギャァ!見ないで!!



「ごめん、ごめん」敦美は小さく舌を出すと肩をすくめてみせた。こんな風に可愛い仕草で謝られると怒る気すら失せるよ。



しかし本心で本当に「ごめん」と思っているのかどうか……フォークで乱暴に引きちぎったラザニアを口に放り込む敦美。



「敦美……何か怒ってる?」恐る恐る聞くと



「怒るって言うか、もう一緒に婚活する仲間がいなくなっちゃったって言う寂しさ」



あのぅ……私がいつ婚活してるって言う設定になったんですかね、敦美サン。



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