女の賞味期限

第21話

■女の賞味期限



結局、陸ちゃんは『会ってからで大丈夫』と言って通話は今度こそ切れた。



大事な話って何だろうな、数分は考えてたけれど駅に着いて電車が到着するアナウンスを聞いたらそれも簡単に忘れ去られた。



会社に到着すると当然いつもの業務が待っているわけで。この日は午前中にスポーツジムに清涼飲料水を売り込むアポがあり、昼の休憩に入る前に会議が一件。



会議の内容は今度新しく発売される香辛料の内容やネーミング、売り出し方作戦を営業チームで練ることに。



しかし……



何だろう、今朝からあちこちから視線が。私の方を見てひそひそと喋っている社員とあからさまに目が合うとさっと逸らされる。



何で?



と思ってると



「仁科先輩、噂の的ですよ。ホストと付き合ってるとか、貢いでるとか」と会議を終え書類の束をまとめていた私に、ご親切にも青山くんがこそっと教えてくれた。その顔は真剣そのもので、私は口をぱくぱく。



そっか、昨日九条の車に乗り込んだのを多くの女の子たちが見てたわけで。



何か……何か言わなければ。



「あー……あいつとは腐れ縁的な…中学からの同級生で、付き合ってないし、貢いでもないよ」と言うと青山くんはほっとしたように胸を撫でおろした。



「そうですよねー、先輩がそんな浮ついた軽い男と付き合うわけないですよね」



と青山は一人で納得。



浮ついた?軽い?



確かにそうかもしれないけど、九条の良いとこもいっぱいあるわけで、何も知らない赤の他人に勝手にレッテルを貼られたくない。



九条は私の作ったどんな田舎くさい料理も満面の笑みを浮かべて食べてくれる。負けず嫌いで、影の努力家でもあるし、二人きりになると意外と甘えん坊になるところとか、私の父の過去を知った時は大げさに同情なんかしなかった、それどころか『そんなクソ男笑い飛ばしてやれ』ってあの明るく太陽みたいな屈託ない笑顔で



言ってくれた。



他にもたくさんあるよ、九条の良いとこ。でもそれは私だけが知ってる九条なんだ。



そんな九条が私はずっと好きだったんだ。



「話はそれだけ?私、今日敦美とランチの約束があるから」と言ってファイルに書類を押し込むと席を立った。



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