第20話


「じゃぁ私、会社行ってくるから。鍵はいつもの通りポストに入れておいて」と合鍵をローテーブルに置く。



”いつも通り”



そう、いつも通りなんだ。九条が泊りに来るのはこれが初めてではないし。構えることなんてない。



少し寒くなってきたから私は薄手のコートを羽織っている最中だった。



九条は私に背を向け、スマホの動画を見ながら「分かった」と小さく返事をして、しかし





「彼女面、していーんじゃねぇの?」





と、ぽつりと小さく言った。



「――――は?」



言ってる意味が



「よく分かりませんが」



きょとんとして聞くと



「二度目は言わねー」九条は振り向くことなくスマホに夢中だ。



どゆこと?



首を捻りながら家を出て、駅までの道私は陸ちゃんに電話を掛けた。



相手はすぐ繋がった。



「陸ちゃん?ごめんね、昨日ちょっと……会社でトラブルがあって……」



何で私は嘘を着いた?何でこんな後ろめたく思うんだろう。何故かそれこそ女の子が夢見る大きな花束ほどの罪悪感を抱いて。



『トラブル?大丈夫だった?』



陸ちゃんは本当に心から心配してくれているようだった。



「うん、何とか解消できた。ごめんね、連絡できなくて」



『いや、無事なら良かった。僕も急に誘ったから、負担になったらごめんね』



陸ちゃんはいつもこうだ。控えめって言うのかな。俺様で我儘で自由な九条とは180度違う。でもそう言う気遣いのできる陸ちゃんはやっぱり同年代の男の人より大人に見える。



「負担だなんて大げさだな~、どっかで埋め合わせするよ。いつがいい?」さりげなく返した言葉に



『じゃぁ急で悪いけど今日とかどうかな。最近研究が落ち着いててちょっと時間ができるんだ』



え?今日?また急な……



まぁ埋め合わせするって言ったのは私だし、流石に二日連続九条が来ることもないだろうし、



「うん分かった。終わったら連絡するね」と言い、電話を切ろうとした。



『あのさ!』



切る流れになって、何かを切り出されたのは初めてだった。



「ん?」



『いや……会って話すよ…』陸ちゃんは歯切れ悪く言い



「?よくわかんないけど、タイミングって大事だよ。何かあった?」



タイミングが大事、なんてよく言うわ。と自分でも呆れる。昨日流れとは言え九条と寝てしまったことがまた後ろめたく思う。



何でだろう。



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