第19話
いや、一応経験はあるけれど、それもそんなに多くないって言うか……そりゃぁ件数では九条に絶対勝てないけど。
もそもそと味のないトーストをかじる。
私はどんな顔をしてトーストにかじりついていたのだろう。
「……な、仁科」
ふいに声を掛けられて目を上げると軽くでこぴんされた。
「ナァニ考えてンの?仁科チャン?」とこれまたエロくニヤリと笑う九条に何でも見透かされていそうで、またも恥ずかしくなった。
エロいって……今まで九条に抱いたことない感情だったのに、致してしまったからか??こいつの周りの空気がうっすらピンク色に見えるよ。
「何でもない。久しぶりに豪華な朝食だなーって」
「いつも仁科の手料理食わさせてもらってるから、たまにはサービス。あ、そいやぁさっきお前のスマホにメールが入ってたよ」
「え?」私はダイニングからリビングに移動してローテーブルの上にあるスマホを手にすると
陸ちゃん AM06:34
連投ごめんね。
昨日返事なかったけど、何かあった?大丈夫?
との内容に、『ああ、しまった』と思わず目を覆った。
そう言えば陸ちゃんのメールに既読はつけたけれど返信するの忘れてた。
「どしたの、そんな真剣な顔して。仕事のトラブル?」と何も知らない九条は『トラブル?』と聞いてきたわりには平和そうにフォークでスクランブルエッグを掬っている。
「ん?うん、まぁそんなとこ」
慌ててスマホをテーブルに伏せる。
別にやましいことしてるわけじゃないのに、何でこんな後ろめたくなるんだろう。
ここは、さっさと食事を終わらせて支度して家を出よう。
と言うわけで私は九条の作ってくれた料理を殆ど味わうことなく、半ば飲み込む形で胃袋に入れあたふたとメイクをして髪をまとめる。
出社時間にはまだだいぶ早かったけれど、これ以上九条と一緒に居るとどうにかなりそうだ。
九条は私がメイクをしている最中、またもベッドに戻って布団をかぶりマイペースにスマホの動画なんかを見ている。
彼女面しないから、と私は言い切ったが向こうは―――?これじゃ九条の方が彼氏面じゃ……
なんて言えやしない。
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