第18話
九条が目を開いて、ゆっくりとまばたきする。
今、何を考えてるの?
その黒い瞳を覗き込みたい一心だったけれど、知ってしまうのが怖かった。だから目を逸らした。そうするしかできなかった。
「じゃ、私シャワー浴びてくるから。テキトーに帰っていいよ」
自分の言葉がどんどん冷たく、どんどん底に落ちていく気がした。そうでもしないと、すでに真っ黒になった自分の心から醜い本心がそれを突き破って出てきそうだったから。
シャワーを浴びながら
「これで良かったんだ」と自分に言い聞かせる。
ただのいっときのお遊び……にしちゃヘビーだったけど、本気になったら痛い目を見るのは目に見えて分かっている。
いつもより時間をかけてシャワーを浴び終え、バスローブに身を包みながらリビングに向かうと、扉を開け放したダイニングキッチンから何やら食事のいい香りがしてきた。
ん??
目を細めてそーっとキッチンの方を覗き込むと
「よ。随分長風呂だったな~、こっちはちょうどいい感じに出来上がったぜ」
とコンロの前でフライ返しを手に、にこやかな笑顔を浮かべた九条が振り向き、
まだ居る!?
ズサっ!思わず後ずさりしたくなった。
な、何で!?帰ってないの!?
「冷蔵庫の中勝手に見させてもらった、仁科って朝飯パン派だったよな」
「ま、まぁそうだけど」
じゃなーい!!!
何で!?一晩限りの遊び相手の女の家で朝食を作ってる!それもごく自然に。
それともこれが九条の通常なのか?寝た女の為に朝食を作ると言う、アフターサービスも度が過ぎている気がする。
テーブルにはすでに作られたであろうサラダとコンソメスープ、トーストとスクランブルエッグが乗っていて、朝からやたらと食卓の上が眩しいのは気のせい?
普段はトーストとヨーグルトしか食べないから、その光景は新鮮であった。
慌ててバスローブから着替えて、せっかく用意してもらった朝食をありがたくいただくことにする。
しかし……
何を考えている九条。
九条は普段通り当たり障りのない日常会話を繰り出している。まるで長年連れ添った夫婦のように口から語られるのは世間話。
「仁科ー、幾らなんでも髪乾かさず飯ってどうなん?」
「だって冷めちゃうじゃん」
「せっかくきれいな髪なんだからちゃんと手入れしろよ?」
「うーん…」
って、フツー過ぎるですけど。
昨日の―――あの出来事は九条にとってなかったことになってる……?
は!
まさかまさかの!私が下手過ぎた!?
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