第17話


今までも九条は泊っていったことがあるけれど、こいつはいつもソファで足を投げ出し寝てた。私は何か起こらないか最初のうちはドキドキとまるで少女のように胸を高鳴らせてたけれど、それは杞憂に終わった。九条にその気がない、つまりこいつにとって私は”女”に入ってない、と思ってたのに。



ズルいよ、誕生日の日に半ば押しかけるようにやってきて、ソファを飛び越えて流れるようにベッドインとか。



それを許した私もバカ女確定だけどね。



それにしても九条………




めちゃくちゃ良かったな!




流石だ。



上手い、上手すぎる。



気持ちよすぎて、失神しそうになったよ。それとも今まで寝てきた男たちが下手だったのか?



何て悶々と考えていると



「はよー……今何時?」



いつのまにか九条が片肘を立てて頭を支えていて『何考えてたんだお前』と言いたそうにニヤリと口元に笑みを浮かべ、ゴホン!私はわざと咳をしてナイトテーブルに置いたスマホを手繰り寄せた。



時間は朝の5時を少し過ぎた所。この頃すっかり陽が昇るのが遅くなったせいか、カーテンの向こうはまだくすんだ藍色をしている。



「5時ちょっと。わ、私支度しなきゃ」



わざとらしく言って九条に背中を向け、昨夜九条に脱がされた下着を探すも、あれ……?ない…どこ?とキョロキョロ探していると



「探し物はこれ?」と言って淡いラベンダー色のブラをひらひらとひらつかせて九条が手にぶら下げていた。



昨日は……



良かった~!割と可愛めの上下セットで。服の関係もあるけれどたまに色気の”い”の字もないベージュ上下セットのときもある。



なんて考えてる場合じゃない。



「ちょっ!いつの間に!」



恥ずかしさに顔が真っ赤になるのが分かった。



男と寝るのがこれが初めてではないのに、まるで初めての日のように羞恥心でいっぱいになる。



手を伸ばすと、九条はそれを遠ざけ、私が追いかけるようにまた手を伸ばすと、こいつの策略か、あっけなく裸の九条の上にのしかかる形になってしまった。



「おはよ」チュッと軽くキスをされ、顔が爆発するんじゃないかってぐらい熱くなった。



アフターサービスか?それはそれは自然にキスをされ、顔を赤くしながら何とか九条からブラをぶんどる。



九条に背を向け下着を履き、ブラをつけて……



「わ、私勘違いなんかしないから安心して?」と呟いた。



「勘違い?」






「一度寝ただけで彼女にしてほしい、とか彼女面とかしないから、って意味」





ここで初めて振り返り、自分でも驚く程冷ややかな視線と口調が自然に出た。この感覚は中学のとき初めて九条に髪を触られた、あのときの感覚と似ている。



そう、こいつにそういうものを求めてはいけない。



好きだけど。






好き、だからこそ。





たった一度過ちがあったにせよ、これ以上の感情を押し付けては



いけない。



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