第7話
さて、ここでクエスチョン。
私は二人にどうメールに返事をしたらいい?
どちらかと食事を共にすると、どちらかを断らなければならない。
本心は―――?
私には父親が居ない。私が物心つく前に外に女を作って出ていってしまった、と言う。捨てられたママは女一人でここまで育ててくれた。
私が中学1年生のとき、初めて”父親”なる人の”顔”を見た。
彼は言葉も発せず、笑うことすらなく、ただ閉じた唇が一文字に結ばれていた。
”写真”では万面の笑を浮かべているのに。
そう、私の本当の父の末路は逃げた先で交通事故に遭いあっけなく逝った、とだけ。
別に―――父親が恋しいとかそんなこと考えてなかった。けれど喪の色をした衣服を身にまとい高級そうなパールのネックレスを首に掛けた母が私の手を引いて、涙を浮かべていた。私は憎かった。死んでも尚、母を苦しめる存在が。
だからかな、私は”結婚”と言うワードに特別惹かれてはいない。
ただ、敦美の言う通り老後の心配はある。この仕事だって定年まで迎えられれば退職金も出るだろうが、いつ異動させられるか、リストラにあうか。そんなことにビクビクして生きるのは嫌だ。
「ねー、陽妃~、あんたってマッチングアプリやってなかったよねー。出会いどこで探すつもり?もしかしてさっきの”陸ちゃん”が彼氏とか?」
「陸ちゃんは彼氏じゃないし。どこで?って……あんま考えてなかった」
「陽妃ってさぁ、この手の話にあんまノってこないよね。結婚とか興味ないの……」言いかけた言葉を敦美は飲み込んだ。
敦美は私の父親が女を作って事故死したことを知っている。だから触れてはいけない何かに触れてしまったと思ったのだろう。
そんなナイーブな女じゃないから安心して。
「単なる私の周りにいる男を見てると、結婚もなー、って」
「何!!男友達”陸ちゃん”以外居るの!?初耳なんだけど!」
敦美は立ち上がるとまるでテーブルを壊しそうな勢いで迫ってきて、私の食べかけのトンカツに黒い影を落とす。
「いや……他にはいないし、二人とも友達っていうか腐れ縁的な…?」
言った後になってはっとなった。
「そんな隠し玉持ってたから余裕だったのね」
「いやー…隠し玉じゃないし、余裕でもないけどね」
「で?二人は何を言ってきてるの」てかさっき説明しましたよね。これ以上の説明っている?
敦美の圧が掛かった影が益々濃さを増していく。たまりかねて私は白状することになった。
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