第5話


「一人は同級生で元ホスト、現ホストクラブオーナー、一人はママの元お客様で医学部の教授。どっちも付き合いは同じぐらいで15年ぐらい」



「何それ!美味しすぎ!」



敦美は舌なめずりをしそうに顔を歪め顔を近づけてくる。



てか近い、近い!



こうなったらやけくそだ、と言わんばかりに私は話題の二人の男からメールが来たことを喋ってしまった。



「そりゃ悩むわー、でも私は教授推しだけどね」と敦美はウィンク。



「陸ちゃん?恋愛とかそんな対象じゃないよー、歳だってだいぶ離れてるし、それにママの恋人だと思ってたし。実際違ったけど」



「じゃぁ無駄に顔がいいホスト?」



ま……まぁ無駄に顔だけはいいわね、アイツ。



「それにずっとナンバー1張ってたんでしょ?稼いでるんじゃない?まぁ女の影には悩まされそうだけど」



ま、まぁカネには困ってなさそうだけど。



「どっちに転んでも将来安泰じゃない!」



敦美は言うけどさ、そんな単純な問題じゃないんだよ。



「ねね、その医学部の教授の彼から誰か紹介してもらえないかな?医学部の教授でなくとも准教授とか」と敦美の目の中に光を見た。それはキラキラと可愛いものではなくギラギラと脂っぽい。



「え…でも陸ちゃん人付き合いとかあんまなさそうだし」



ハッキリ言って陸ちゃんはコミュ力が少ない方。私とは長年の付き合いだし今なら何でも話せるけど。



「ここは、親友を助ける為と思って、力になってよ!」



ガっと両手を掴まれて私は目を開いた。



「う、うん……機会があったら話してみる」



「絶対ね!」



「う……うん…」と答えるのが精一杯。



はぁ



私は小さくため息。





「男運の悪さも遺伝するのかな」





結局メールの返事に応えることができず、敦美に圧を掛けられランチは終わってしまった。



そこから定時を迎えるまで打ち合わせがあったり、会議に出たり、書類をまとめたりで時間があっという間に過ぎたけれど、今日に限って残業がない状態。『残業で遅くなる』と言う口実がなくなってしまった。仕事中、二人にどうやって返信すればいいのか悩んでいたのに、時間だけは私を裏切ってどんどん過ぎていく。



あわわわわ……どーすれば…



帰り支度をして、エレベーターホールでエレベーターが来るのを待っていると、敦美があざといと言っていた宝田さんと一緒になった。



「あ、お疲れ様で~す」と宝田さんは甘ったるい声でぺこりと腰を曲げ



「お疲れ様です」と返すと、そこで会話は終わると思いきや



「先輩てぇ、いつもオシャレな服着てますよねぇ」と宝田さんがしげしげと私を眺めながら声を掛けてきた。



服?今日は確か落ち着いたセージグリーン色のブラウスに、某ブランドの元はスカーフだった絵柄のデザインのスカート。そしてチャコールグレーのパンプスだ。ブラウスと同じ色合いのジャケットは室内が暑かったから手に提げている。



「見るからに高そう」と宝田さんは言い、ちょっと意地悪っぽく口元を曲げると



「パパ活ですかぁ?」と165㎝と言う背+10㎝のヒールと言う私に対して推定155㎝+7㎝ヒールと言う宝田さんが背伸びをして私の耳にボソっと一言。



ぱ、パパ活ぅ!?



目を丸めて宝田さんを見るも



「あ、でもその年齢じゃ無理っぽいですね~」と何かを憐れむような目で見られ



宝田ーーー!(怒)



私は今すぐ持ってるバッグでぶん殴ってやりたかったが、当然そんなことをしたら一発アウトだ。



変なことを言ったりしたら、やれパワハラだ、セクハラだの騒がれるのは間違いがない。



結局「はは…」と空笑いをすることしかできないのだ。



世知辛い世の中だわ。



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