第52話
その家は立派な日本家屋で、まさに「お屋敷」と言った感じだ。
それはこの令和の時代と激しくミスマッチだ。国宝級と言ってもいい。
古めかしい木の門扉は雨や風でさらされ随分と古びていた。
表札に『那倉』と書いてあった。
「何て呼ぶんだろう。”なくら”?」私が首を傾げていると
いかにも後から付けました、という少し新しめのインタホンがあって「とりあえず聞いてみよう」と塩原がそのインタホンを押した。
ピンポーン
と渇いた音が響いた。
『はい…』
中から想像もしなかった若い女の子の声が聞こえてきた。
思わず塩原と顔を合わせる。
だって今まで訪ねていった人たちは大抵ご老人だったから。声からすると高校生ぐらいに思えた。
「あの、わたくしこういう者で」と会社名を名乗り、近くにカフェを作ること、そして古い写真を集めていることを説明すると、門扉からおずおずと……やはり高校生を思わせる女の子が顔を出した。
可愛らしい…子だった。
肩までの黒い髪、目を大きく唇は甘いチェリーを思わせるグロスが乗っていた。今風の女の子だけど、この近くに高校など無いから、街の方まで通っていると思うとちょっと気の毒になった。
が……
女の子は私を見るなり、はっと息を呑み、大きな目をさらに大きく見開いた。
「どうして……」
女の子の第一声はこうだった。
『どうして』?何が『どうして』なのだろうか。
「あの……?」思わず顎をひくと
「ちょっと、来てください。今、お祖母ちゃんが留守だから」と言って私の腕を引く。
「え!え?」
わけも分からず私は女の子に手を引かれるまま、思いもかけずその立派な日本家屋に足を踏み入れることになった。
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